午後13時、正森隆(35)に睡魔が襲い掛かってきた。デスクワークで、目の前にはパソコンモニターがある。ここ最近仕事が回らず手が空くようになり、昼食後の午後には毎日のように睡魔が襲い掛かってくる。本人にとってとても耐えられるものではない。
上司が退室すると、緊張がほぐれ、睡魔がピークに達した。一瞬意識が飛び、大きな衝撃で目を覚ます。周りがその音に驚く。どうやら首がカクンと落ちて、頭をおもいっきり机にぶつけてしまったらしい。ぶつけた後の頭が痛いので、寝ていたこと自覚する。隣に座っている同僚が、正森に話しかけた。
「何お前、怒ってるのか?」
「いえ、違います。肘を机にぶつけただけです」
「キレて机殴ったのかと思ったよ」
「そんな、とんでもないです」
本当のことは言えなかった。できれば今の出来事で少しでも目が覚めてくれればいいと思った。しかしそれは10分ともたなかった。ふたたび睡魔が襲い掛かってきた。スッと目から視界が消え、暗闇に落ちた。ハンマーを振り下ろすように首が勢いよく机に落ちて、再び大きな衝撃音が走った。机にヒビが入る。目が覚めると、同僚がふたたび話しかけてきた。
「お前、やっぱりキレてるのか?」
「いえ、机に膝がぶつかっただけです」
「すごい音だったよ」
「そうですか・・・気をつけます」
このままでは机を壊しかねないので、正森はこめかみに手を当てて、考えているフリをしつつ眠ることにした。手で首を押さえていれば、カクンと落ちることはないと考えた。
しかしそれも長くは続かなかった。深い眠りに落ちて30分後、頭を支えきれなくなった腕がぶらんと落ちる。そして一気に首もガクンと落ち、ふたたび机に直撃した。反動で一旦首が上に上り、もう一度机に直撃。あまりの威力にとうとう机が真っ二つに割れた。
「クビだ!」
最悪のタイミングで上司が戻ってきた。真後ろから見ていたので机に思いっきり頭突きしているように見えたらしい。寝ていることは未だにバレていないが、真後ろからだと完全にストレスを机にぶつけているように見える。上司はこの男の危険性を察知し、すぐに判断を下した。
「ク・・クビですか」
「俺は見たぞ。いきなり頭突きなんてしたらみんなビックリして仕事に集中できない。そのうちお前は対象を机から人に変えるだろうな。俺もいつやられるか分からない・・・あーこわ。そんな危険な奴は会社に置いて置けない。クビだ。会社から出て行け」
正森は周囲を一瞥した。同僚達は上司に同調しているのか、こっちを見ずに何度も頷いている。正森は諦めた。
一ヵ月後
「クビだ!!」
店長が吠える。バイトでコンビニのレジ打ちをはじめた正森がまたクビになったところだ。店内には真っ二つに割れた机がいくつも積み重なっている。客が来ない時間帯に眠くなって、次々と机を真っ二つにしてしまったようだ。
眠くなって頭突きで机を壊す男・・・、この男にもはや未来はなかった。ホームレスの道へを歩むことになった。