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癒し系カウンセラー

「山下、お前今何やってるんだ?」
「はい、先輩。ちょうど時間ができたので、書類の整理をしています」
 先輩らしき男は、コーヒーを啜りながら、自分の散乱した机上に目を通した。
「じゃあついでに俺の机も整理しといてくれ」
「わ、わかりました。熊村先輩」
 熊村と呼ばれた男は、そのまま席をはずした。

 山下は言われた通りに机を整理する。手際よくこなし、見違えるほどに綺麗になった。10分後、熊村が戻ってきた。気分がいいのだろうか、口笛を吹いている。
「おお、山下。終わったようだな」
 満足した顔で整頓された机上を眺める。山下はその様子を見てホッとした。しかし、それもつかの間。信号が切り替わったように熊村の表情から笑顔が消える。

「ど・・・どうしたんですか?熊村先輩」
「どこに何があるか分からないな、これじゃ」
「す・・・すいません」
 山下が反省した様子を、しばらく伺う熊村。しばらく考え込むと、まったく予想しなかった言葉を発した。
「お前、俺の机から何か盗っただろ?どこに何があるのか分からないのはカモフラージュだな」
「そ・・・そんな濡れ衣です」

 どうしていいか分からない山下を前に、熊田は関心するように何度も頷きながらさらに続ける。
「うんうん、感心するなぁ。それは演技か。用意周到だねぇ」
「信じてください」
「悪いが俺の直感は100%当たる。このことは上に報告しておくからな」
 どうすることもできなかった。山下は誰かにこのことを相談できないかと思った。

 

山下は帰り際、よろよろ歩いていると一つの建物を目にした。
「あれ、こんなとこあったっけ?」
 ピンク色の優しさや和やかさを象徴するような外観の前には、”癒し系カウンセリング 無料”と掲げられた看板。迷いはなかった。自然と足がそっちの方向へ進んでいく。

「俺が癒し系カウンセラー、破壊村 正敏だ」
 入ってきた早々、大男が挨拶してきた。山下はあまりの威圧感を前に身動が取れない。破壊村の身長は200を超えている。

癒し系カウンセラー

 あまりの威圧感に圧されるように、山下がしりもちをつくと、破壊田はその辺にあった椅子を用意した。
「まあ、ここに座れや」
「は・・・はい」
 山下は椅子に腰を下ろしたが、破壊田は依然として立ったまま。この体格じゃあ、普通の椅子も壊れるだろうと山下は思った。ただ、この威圧感の前ではリラックスどころか恐怖におののくまま、じっと待っているしかなかった。

「なんだ、びびってるのか」
 その様子に気づいたのか、破壊田が山下に笑顔を見せてやった。歯をむき出しにし、目を充血させている。

破壊田の笑顔

「ひ・・・ひぃいい」
椅子がガタガタしている。山下は震えが止まらないためだ。破壊村はかまわず質問を始めた。
「どうしてここへ来た?」
「ひ・・・」
 恐怖におののくあまり、うまく答えられない。すると、破壊村は山下に向けて手を伸ばしてきた。相手を落ち着かせるためのスキンシップだった。ただ、その太い腕からは、いつ頭を掴まれてもおかしくないという恐怖感がある。

破壊村のスキンシップ

「おおおお、俺がスキンシップしてやるから安心しろぉおお」
「す・・・すいません~~!!」

 とうとう山下は逃げた。悩みを解決することなく。完。

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