- 自作小説
- 飛び降り自殺のとき、急用を思い出した男 ~苦痛の2秒間~
飛び降り自殺のとき、急用を思い出した男 ~苦痛の2秒間~
私は今、高層ビルの屋上にいる。靴を揃え、遺書を書き終わったところだ。
・・・3日前、会社を倒産にまで追い込むミスをしてしまった。クビになり、家族にも見捨てられる。ホームレス生活が始まったばかりだが、潔癖症である私の性に合わなかった。 そして昨日、とうとう闇金融に手を出してしまい、見事なまでに騙され、たった一日でとても返済しきれない額まで借金が膨らんだ。
「さて、飛ぶか・・・」
意を決し、一歩踏み出す。二歩目で私は空中へと舞い降りるだろう。足に震えはなかった。覚悟ができたというよりも、ようやく今まで背負っていた重荷を下ろせるんだという安堵感に包まれていた。そして、目を閉じたまま二歩目を踏み込んだ。 きっとあっという間だろうと私は思った。身体が宙に舞い、速度を上げながら地面に落ちてゆく。
かかる時間はおおよそ3秒。まさかその3秒間がこれほど長くなるとは思っていなかった。 1秒経過で、急用を思い出すと、閉じていた目が大きく開く。
「神様に天国へ連れて行ってください!と祈り忘れた!」
このままでは死後、地獄へ行ってしまうかもしれないので、一度自殺を中断しなければならない。だが、既に地面に向かって落ちはじめているため、手遅れだ。2秒間では考える暇もない。直感で行動を起こさないと、即地獄行きとなる。 その時、私の視界に一人の男が映った。ちょうど私の落ちる位置で待ち構えている。私の自殺に気がついたからだろう。助けてくれるのかもしれないと思ったが、どうやら違うようだ。
その男は私を助ける様子など全くない。それどころか、落ちてくる私と衝突するつもりで自殺を計っているようだ。男が私を見上げる。その目つきは完全にこの世で生きることを諦めた虚ろなものだった。
残り1秒。私は・・・