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鼻の穴が大きすぎてちゃんと生活ができないの!!

 穴村忠雄46歳。
生まれつき鼻の穴がでかい。その悩みと幼少期の頃からずっと戦っていた。
いじめはもちろん、電車に乗っている時も周囲の人からは珍しいものを見るような視線を浴びたり、散々な日々だった。それでもやっていけた。辛いことは次第に慣れていくものだ。

ところがどうしてこんなことになってしまったのだろう。
去年の夏頃から、急に鼻の穴が成長をし始めた。日を増すごとにその半径は徐々に広がっていくではないか。もともと人並み外れた尋常ないサイズの巨大な穴がさらにでかくなっていく様に、穴村は恐れた。

そして46歳の誕生日を迎えた頃には、半径45cmを超えていた。
しかも左右のバランスが悪く、右の半径が45cm、左の半径25cmだった。ここまで巨大なサイズになると、私生活への影響は多大なものだった。たとえば息を吸うとき、鼻の穴から空気を吸い込む力があまりにも強くて、余計なゴミまで吸い込んでしまう。
また、一度に吸い込む酸素の量が常人の数十倍あるため、例えば酸素のあまり行きとどかない密室に居続けると、酸欠で死んでしまう恐れがある。もちろん、その場に居合わせた奴らがいると、そいつらも道連れにしてしまう。

 

六畳一間の部屋で、穴山は叫んだ。
「くそーーー!何でこんなに鼻の穴がでかいんだよ!ちくしょうちくしょう!うおあああああああ!!」
この悩みを持つ者は世界でただ一人、穴山だけだ。インターネットのコミュニティサイトでこの悩みを真剣に書きこんでも、誰にも信じてもらえず、バカにされる始末である。ここ最近、部屋から一歩も出ていない。収入はインターネットを介した在宅ワークから得ているので、生活に支障はない。

 

一週間後、穴山の鼻の穴の成長が急に止まった。
「おかしいな、なんでだろう・・・。もしかして治ったのかな」
しかし喜んだのはつかの間、その日は雨だった。
「冷たい!」

部屋の中にいるはずなのに、水が漏れてきている。見上げると、天井に小さな穴が開いていた。
とりあえず、その日は木の板と釘でその穴をふさいだが数日後、それが無駄な努力だったことに気がつく。天井の穴のサイズが大きくなっていくのだ。まるで今まで穴山を襲った鼻の穴のように。嫌な予感がした。鏡を見る。鼻の穴はなんともなかった。むしろ小さくなっているような気がする。それはそれで嬉しいが、天井の事を考えると偶然と結びつけることはどうしてもできなかった。

雷の轟音が穴山の耳にけたたましく響いた。天井は巨大化した穴のせいで筒抜け同様になっている。大粒の雨が次々と部屋へ降り注いだ。
「勘弁してくれよ。風邪ひいちまうよ・・・あれ?」
びしょ濡れの部屋の中で、自分が息苦しくなっていることに気がついた。今まで鼻呼吸だった穴山は口呼吸に切り替える。ふと不安がふとよぎり、鏡を見てた。鼻の穴がない。
「俺の鼻の穴が・・・・!!」

顔面蒼白になった。今、自分の体の中で何が起きているのだろうか。その時、急に鼻がむずむずしてくしゃみがでそうになった。鼻が既になくても、鼻水がでる感覚だけが脳の中に残っている。まるでまだそれがあるかのように。
「く・・・くしゃみがでる。鼻水が・・・・!」
くしゃみをする。鼻の穴がないのに、穴山は確かにその感覚を自分の鼻で感じることができた。鼻水が大量たはずだ。そう思った瞬間、穴山の全身にぬちょぬちょしたゲル状のものが絡みついた。大量の鼻水が天井から落ちてきたようだ。

実は穴山の鼻の穴は部屋の天井に移り変わっていた。だから感覚もはっきりと残っていた。それを悟った時にはもう遅かった。ゲル状の鼻水が上から滝のように流れ、穴山は息ができなくなった。
「ぎゃああああぁああ!」

完そして、あの世へいっちまった。

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