野良猫とホームレスは紙一重だ。
まともな飯も食えず、日々ごみあさりという現実向き合っている。
俺の名前はネコン。
新宿歌舞伎町の界隈で俺を知らない奴はいねえ。
一寸の迷いもなくゴミ箱の中に突っ込んでいくその勇姿。
数々の病気と戦い抜き、抜け落ちてしまった全身の毛。
間違ったものを食べてしまったのか、全身に生えてしまった毒茸。
1年。俺は1年でこの新宿歌舞伎町でこう呼ばれるようになった。
・・・ 茸の化け物と。
新宿公園では、正午を過ぎるとゴミ箱にたべかけの弁当が摘み上がっていく。
俺にとってはこんな天国、他にあるものか。
ゴミ箱に向かって猛突進すると、それを見た子供がこう叫ぶ。
「ぎゃー茸の化け物が現れたーー!!」
分かるぞ。お前らが何を言っているか。だが、そんなことにはもう慣れている。
今まで何度傷ついたことか。
俺は振り下ろすハンマーのように、顔をゴミ箱に突っ込んだ。
美味い。一人では食べきれないほどの量の弁当だからこそ好き物をたくさん選べる
美味いものから選び、それにかぶりつく。
空腹を満たすと、俺は次の行動に思考をめぐらせた。
働きてぇ・・・。
スーパーいちごろくななはち。
ここでは、仕事を求めてやってくる猫の数が絶えない。
もちろん、人はまさか猫が金を稼ごうと考えているなんて気づいちゃくれないが・・・。
今日の俺もその猫の一部にあたる。実力を発揮して金を稼ぐために。
ここで普通の猫なら、人間にニャオニャオ鳴いて追い払われるのがオチだろう。
だが、俺はただ鳴くだけで終わるヤワな猫ではない。
毒キノコを身にまとった俺の身体はゆっくりとスーパーへと近づく。
そこへ集まっていたおよそ10匹の猫が俺を恐れ、逃げていった。
俺は店員の目の前でピタリと止まった。
「な・・・なんだこいつは・・・化け物か!」
店員は一瞬たじろいだが、逃げたくても逃げられない。
俺から逃げてしまっては品物を守る奴は誰もいなくなるからだ。
「ニャオ」
とりあえず、俺は働かせてくれと頼んだ。この店員は分かってくれるのだろうか。
店員は身を震わせながらゆっくりと口を開く。
「食べ物・・・やるもんかお前なんかに」
人間の言葉を俺は理解できない。だが、表情や仕草を見れば大体何を言っているのか分かる。
鳴いて分からなければ、ジェスチャーで伝えるしかない。
「ニャオ」
店員は首を傾げた。
俺は必死に腕を回すなり、尻尾を回すなりしてみたが、なかなか伝わらない。まだ続ける。
すると、動きすぎたために毒茸の胞子が中に舞い上がった。
俺はそんなことにも気がつかず、ずっと腕や尻尾を回し続けた。
「ぎゃああああああ!!」
店員がとうとうその胞子を吸い込んだ。
恐ろしい光景だった。俺の目の前で人が死んでいく。怖くなったのでおれはその場から逃げるように去っていった。
一週間後。
俺はショックから立ち直り、毒キノコ猫からトゲトゲ猫となった。人間どもからは巨大ハリネズミとか言われる。
育毛が成功したのだ。ゴミ箱から拾った育毛剤だが、思った以上に強力だったのだ。
今度こそ雇ってもらおう。スーパーいちごろくななはちに。
目的地につくと、前回とは違う店員が立っていた。死んだから当然だろう。
壁を見ると、 張り紙が貼ってある。
”毒キノコの化け物に注意!”
・・・今の俺には関係ない。前とは違って巨大ハリネズミだからな。誰も気づかないだろう。
堂々として店員の方に近づいていくと、店員が構えに入った。
「うわ・・・ハリネズミだ」
俺はそのまま仕事をしたいと、ジェスチャーで表現する。店員の反応はなかった。
今の俺は、針に覆われている体なので、前回のような毒の胞子による心配はない。
前回同様、腕を回すなりして機敏さをアピールする。
「何だこのネズミ?」
店員の目は俺が思惑どうりにはいかず、変なものを見る目になった。これでは意味がない。
おそらく俺は壁をつくっているのだろう。そこで考えた手は、その壁をないように見せる事だ。
猫というのは、懐くと飼い主に近づく。ならば俺は店員に思いっきり近づいてやろう。
「ニャオ~~~~」
その全身の鋭い針をギラつかせ、俺は店員に飛びついた。それは、大きな計算ミスである。
「ぎゃあああ!」
即死だった。針はそれぞれ、見事に店員の体を貫いた。
前回同様、俺はその場を逃げた。息が荒くなっていく。
追われているわけでもないのに、何か恐ろしいものに追われている気がするのだ。
このまま俺はどうなっていくのだろうか。
ふたたび一週間が過ぎる。
俺は周囲を見回した。皆、視線を合わそうともしない。
そりゃそうだ。すっかり俺は立ち直って、体も新しくなったのだからな。
・・・あれから苦労した。殺傷性のある危険な針となった毛をすべて抜き取り、
新たな体をもとめ、異常なまでのカルシウムを摂った。
思った以上に成功し、骨への影響は凄まじかった。
まるで大魔王の変身のような骨の成長だったため、止めようはしたが、すでに遅い。
とりあえず完全体になって、成長が止まるまで待つ事にしかなかった。
・・・今となっては、もう猫の原型すら残っていない。
仕事は、もう懲りたので探す気がなかった。この姿だともう完全に無理だろう。
今後、 人間とは一切関わらないつもりだ。
この危険すぎる姿、いや、強さといったほうが正しいだろうか。
人間はこの体に 触れただけで軽く3人以上死亡するだろう。
「おう、そこの全身が炎につつまれて大砲とかとかエクスカリバーとかくっついてる奴」
何だろう。後ろからの突然の呼びかけに俺は反応できなかった。
俺は幻聴でも聞いたのかと、笑いかけたその時、今度は正面からそいつが話しかけた。
「お前、戦争向きだな。そして、お前こそ救世主だ。ウチへこないか?報酬ははずむぜ」
俺の人生・・・?猫生が新しい角度へ傾いた。