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激しいバイトの面接

俺の名前は撃男。18だ。

面接官に、面接が終わる前に、帰るように言われた。
俺は人と会話するとき、感情が暴走してしまうのだ。
就職はもちろん、これではバイトも無理だ。

周りが見えなくなるらしい。
嬉しいときも、悲しいときも一緒なのだ。
その時のことはよく覚えていない。

 

警備員に面接する会社を追い出された俺は、
コンビニへ、バイト用履歴書を買いに行った。
買い物はさっさと済ませたい。
金が足りなかった等のヘマをすれば、
店員とのわずかな会話が始まるため俺の感情が
暴走しかねないからだ。

ふくろを入れますか?と聞かれて、返事をするのにも
気をつかう。暴走を止めるために。

カウンターに履歴書を置いて、ちょうどいい金額を払う。

店員「袋に入れますか」

撃男「はっ・・・はっ・・・はひはひ・・・はい・・・」

こらえる事ができた。
俺はコンビニで一度も暴走した事はない。
だからといって嬉しい感情を上げるわけにもいかない。
感情の値は、どれも平常値を保てねばならないのだ。

次は証明写真だ。
数回面接をする度にこいつを買わなきゃならない。
本当はプリクラでも使いたいが、すぐバレるだろう。

自動証明写真機の中に座り、良い姿勢を保つ。
ジャッターが開くまでの数秒間の出来事だった。
俺の緊張感が急激に上昇し、表情がおかしくなった。

失敗した証明写真

気がつくと、失敗した証明写真を手に持っていた。
やり直しだ。服装もおかしい。
17回目のシャッターでようやくうまく写真が撮れた。

成功した証明写真

準備は整った。
今回、俺が面接しに行くのはよくある工場だ。
プラスチックの部品を組み立ててチェックするだけという
単調な作業をする所らしい。

そこへ向かう途中の足取りが重い。いつもの事だ。
どんな時も理性と戦わなければならない。
工場が見えきた。

 

ゲートをくぐりぬけ、古臭い建物に入る。
廊下を歩いていき、面接予定の部屋のドアの前に着いた。
このドアの向こうに面接官が俺を待っている。
5分早く着いたようだ。
神様は俺に心の準備をする時間を与えてくれたようだ。

 

まずは持ち物、衣服のチェックだ。
相手に必要以上に上質感を与えるスーツ。
金持ちだと思わせるのではなく、これだけ真剣に
面接をしているのだという事を相手に伝えるためだ。

瞬間精神安定剤。
理性がある限り、これさえあれば、感情の暴走が止められる。

ガムテープ。感情の暴走によるうめき声は、
周囲に大きな迷惑をかける。
暴走しそうな時にはこれで口を塞げばいいのだ。

くまぬいぐるみ。以外にこれが役立つ。
感情の暴走は、ストレスによるものからも発生する。
5分おきにこれをかわいがれば、俺の心は和むはず。

チェックが終わると、深呼吸をして、扉を開けた。
メガネをかけた面接官が俺を無表情で迎える。

面接官「はい、どうぞ」

俺は自分を抑えながら、面接官のところへ歩く。
感情の暴走を必死に抑えているので手がブルブル震えている。
汗もひどい。叫びたいけれど、それはここでは無理の話だ。

面接官のテーブルまでついた。
面接官はテーブルの前の椅子に指差した。

面接官「椅子にかけて」

撃男「はい。・・・すーすーすすすすす・・・
座らせて・・・いただき・・・ますます。ます、ますすすす」

今の返事で、面接官は何だこいつはという顔になった。
これでもかなり上出来なのだ。俺は言われた通り、椅子に座った。
面接官の口が開いた。

面接官「履歴書は?」

撃男「あ・・・はいど、どどどどどどどどーーーーん。どうぞ」

履歴書を渡すと、面接官は一通り見て頷いた。
俺はトイレに行きたいような顔で、ただ感情を抑えている。
面接官の視線が履歴書から俺に方向を変えた。

面接官「ところで、さっきから何ブルブル震えてるんだ?
息も荒いじゃないか。病気じゃないよね?」

撃男「い・・・いいえ・・・・その・・・・
生まれつきな・・・ももも・・・もんもん、もので・・・・」

面接官「・・・そう」

そんな目で見ないでくれ面接官。
感情が制御できなくなってしまうよ。
頭の中でそれしか考えてなかった。
このままだと、暴走へのタイムリミットが余計に近づく。
こういう時はぬいぐるみを可愛がるのがいいのだ。

撃男「ち・・・ちょっと失礼・・・」

面接官「はい?」

俺がクマのぬいぐるみをバックから取り出し、
強く抱きしめてやった。

撃男「く・・・クマちゃん!」

思わず、大きな声をだしてしまったが、
これでもう少しもちそうだ。ぬいぐるみをしまった。
面接官が驚いたような顔でこっちを見ている。
すこし間が開いた。

俺は何かいけない事をしたのだろうか。
面接官がなかなか質問をしてこない。
このままではまずそうだ。逆に俺が質問してみた。

撃男「あの・・・あの、ああああの、あのののののんのん、
あの・・・時給は・・・・いくらですか?かかかっかか?」

面接官は答えない。もう一度聞いてみる。

撃男「あの・・あのののの、あの、あの、じじじじじじじじじ
時給は・・・・いいいいくらです・・・・か?かんかんかんかー?」

また無視された。無視されると傷つく。
暴走しかねないので、ぬいぐるみの癒しを欲した。
5分たってるし、ちょうどいい。

撃男「ちょっと失礼します」

クマのぬいぐるみを強く抱きしめて、大きく叫んだ。

撃男「くまちゃーーん!!!!!くまちゃーーーーん!!!!」

 

面接官が机を強く叩いた。

面接官「やめないか!!」

怒られた。ちょっと声がうるさかったのだろうか。
俺はここにきて大きなミスを犯したようだ。
俺はびびってクマのぬいぐるみをあわててしまった。

怒られた時の傷は計り知れない。
ガムテーブの出番だ。バックから取り出すと、
自分の顔に巻き始めた。

撃男「もごもご!」

この選択は正解だった。
ガムテーブをしなければ、今ごろ俺は赤子のように
叫び狂っている。
少し待てば、この感情の高まりは落ち着くはず。
それを左右するのは面接官の行動にある。

撃男「もごもごもご!」

心の奥で念じた。面接官よ、このままじっと待っていてくれ・・・
1分もすりゃ、俺の感情という湯が冷めて、
自分からガムテープを外して、瞬間精神安定剤飲むから・・・と。

 

面接官「真面目に面接しないか!!」

面接官の渇。気が短いようだ。
20秒もしないうちに、俺の期待を裏切ったのだ。
まずい、感情の暴走が始まる。

あわててクマのぬいぐるみを取り出し、
ギュッと抱きしめる。これでも、もつかどうか分からない。

撃男「もごーー!もごーーー!!」

その時、面接官が手を伸ばし強引に
クマちゃんのぬいぐるみを俺から取り上げた。
用意周到で今回こそはうまくいくはずだったのに、
これではもう、それが逆に裏目に出たような結果だ。

もう、俺には完全に面接は無理なのか。
たちまち、感情の暴走が始まる。

撃男「もごもごーーーー!!」

無意識に、ガムテープを剥がして叫んだ。

撃男「仕事くれーーー!!ブヒヒヒヒーーーーン!!」

テーブルの上に乗っかり、座ってる面接官を上から眺める。
面接官が指を椅子にさした。

面接官「座れ!・・・いや、帰れ!!」

撃男「仕事くれーーー!!うおーー!ニャオーー!
ワンワン!!ブヒーーー!!ピヨピヨー!!」

面接官が真顔で受話器をとる。
警備員を呼んで、そのまま待った。

撃男「うきょきょきょきょーー!給料くれーー!!
1万くれーー!10万くれー!100万くれー!!」

そう叫びながら、面接官に抱きついた。
気の幹にしがみつくカナブンのように。

面接官「やめてくれよっ!」

面接官が俺を振り払うと、今度は腕立てを始める。
自分をアピールしているつもりなのだ。

撃男「いちにいさんしいごーろくしちはち!!!」

8回で倒れた。
失敗がくやしいので、今度は大泣きする。

撃男「オギャーー!!」

そして警備員が来た。

警備員「よし!キミ!そんなとこで泣いてないでこっち来い!」

面接官「頼むよ」

撃男「オギャー!オギャー!」

警備員「なんだこいつ?」

バタバタしている俺を警備員が押さえつけると、
やがて、もう一人の警備員がやってきて、 二人で外に運び込まれた。

 

そして、ようやく我にかえった。

撃男「あーあ、また暴走しちゃったよ・・・」

舌打ちをして、ふたたび次の面接先を探し出す。

完。

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