でへへへーーーー。
俺の名前は、鶏田。13歳。
この街で、俺をしらねえ奴はいない。
毎朝、ゴミ捨て場に溜まるゴミをカラスのように荒しまくる俺。
近所のおばさん共で、俺の噂がひろがっている。
カラスボーイと呼ばれていて、
半径7,5メートル以内に、近づいてくる奴はいない。
それは俺に近づけば、
病気が移ると思っているからだ。
朝7時。自宅。
うおおおん。太陽が眩しいぞぉぉ。
今日は月曜日だ。
燃えないゴミが、ゴミ捨て場に最も多く溜まっているはずだ。
この時間帯が一番多い。
俺のカラスみたいな脳がうずきはじめる。
おふくろは毎朝、食事をつくってくれるが、
そんなものはいらない。
ゴミ捨て場には、いろんな食い物が俺を待っている。
確かに変な味がするけれど、
自分の力で手に入れた食い物を食えるという喜びがあるので、
あえて俺は、ゴミ捨て場を選ぶ。
学校は9時からだ。
ゴミ回収車がゴミ捨て場にやってくるのは8時。
今はまだ7時なので、時間に余裕がある。
うるさいおばさん達に注意しながらゴミ捨て場を荒らしていれば、
簡単においしい食い物を見つけることができるのだ。
着替え。
黒い服を着て、黄色い帽子をかぶった。
俺がカラスボーイと呼ばれるのは、この服装のせいだ。
着替えが終ると、家を後にして、ゴミ捨て場に向かった。
いつものゴミ捨て場。
ここだ。ここが俺の大好きなとこ。
でへへのへー。
俺の予想通り、たくさん燃えないゴミが溜まっている。
ゴミ袋に入った、近所の捨てた昨日の晩飯の残りものが、
ここにたくさん捨ててあるのだ。
鶏田「さーて、どの角度から攻めようかなー♪」
ふっくらとしているゴミ袋の山に、食欲をそそられる。
鶏田「ファイヤー!」
俺の右手は、ゴミ袋の山の右側から、袋を突き破り、
くじ引きの箱の中に手を突っ込むようにして、
ゴミ袋の中に入っていく。
「ガサッ!ガサッ!ガサッ!」
この感覚だ。
野菜、肉、魚、なれた手つきで袋の中をかき回す。
中身を見る必要はない。
もう、手の感覚だけであらゆる食い物を把握できる。
おばさん「ちょっと!」
聞きなれた声。いつものうるさいおばさんが現れた。
おばさんは毎回、家の窓から顔を出し、
俺の姿を確認できるまで待っている。
視界に俺がうつると、待っていたかのように、
家からでてきて俺にうるさく注意する。
俺のゴミ荒しよりも、こいつのうるさい声の方が
よっぽど近所迷惑だ。
鶏田「ばばあ!おうちに帰りな!」
おばさん「カラスボーイ!あんたいつも迷惑なんだよ!
みんなのゴミ捨て場を散らかすなんて!」
俺はかまわず、ゴミをかき回す。
このおばさんは、ただうるさく叫ぶだけだ。
俺に近づいたことは一度もない。
それは、俺が激しくゴミを荒らす時に飛び散ってくる生ゴミが、
汚いからだ。
放っておけば、叫びつかれて、家に帰る。
いつものパターンだ。
おばさん「迷惑だってのが、聞こえないのかい!」
鶏田「ババア。食べ物は始末にしちゃいけないんだ。
俺が今、やっている事はな、すごく正しいんだよ。
確かに、町を散らかして、みっともなくて、汚いけれど、
あんたらのように、まだ食えるもの平気で処分するよりは
マシだと思うんだよね。
俺の言ってること、分かってくれるかい?」
おばさん「うっさい!」
5分後おばさんが諦めて帰った。
鶏田「へっ!また帰ってやんの!俺は正しいんだよ!」
しかし、この後、俺が予想していなかった事が起きる。
「タン タランランラン♪ タン タランランラン♪
タン タランランランランランランー♪」
ゴミ回収トラックの音楽が流れてきた。
おかしい。
なぜ、こんな早い時間にゴミ屋さんが来るんだ。
今の時間は、まだ7時ちょっとだ。
とりあえず俺は、電柱の陰に隠れた。
鶏田「まだ7時15分なのに・・・」
ゴミ回収トラックが、ゴミ捨て場の隣に停まった。
清掃業者がニ人。
そいつらはトラックから降りると、ゴミ袋に手を伸ばす。
鶏田「・・・あれ?」
様子がおかしい。
清掃業者二人は、ゴミ袋を開けて、中身を確認している。
鶏田「あ!」
よく見ると、清掃業者は二人とも黒い服を着ていて、
黄色い帽子をかぶっている。
鶏田「まさか、違うよな・・・」
そのうちの一人がとうとうゴミ袋に手を入れ、
おいしそうに生ゴミをムシャムシャ食い始めた。
もう一人は、婚約指輪を選ぶような目つきで、
どの生ゴミを食おうか迷っている。
鶏田「やっぱりそうかよ・・・」
清掃業者1「うおーーー!生ゴミうめーよー!」
清掃業者2「どれにしようかな♪かみさまのいうとおり♪」
二人声が聞こえてくる。
できれば俺も、輪の中には入りたい。
清掃業者1「あー、早く来て正解だな」
清掃業者2「そうだよな。少しでも遅いと、その分、腐るからな。
腐ると、いろんな虫が増えてきて、それをどかすのに苦労するぜ~」
そう言うと、清掃業者2が、ようやくゴミ袋に顔を突っ込む。
鶏田「!」
清掃業者2の食いっぷりは、俺を驚かせた。
清掃業者2「カー!」
そいつは手を使わず、本当のカラスのように、生ゴミを食っていた。
清掃業者2「カーカー!カーカー!」
首を上下に動かし、手をパタパタさせて食っている。
これが本当のカラスボーイなのだろうかと、俺を驚かせる。
鶏田「あ!」
俺は一瞬、自分の目を疑った。
清掃業者1は黒人で、本当のカラスのように黒い肌をしていた。
清掃業者2は毛深かすぎて、顔が見えないくらい全身真っ黒。
二人共、唯一色の違う黄色い帽子が、
カラスのクチバシのように、目立っている。
ゴミ袋の中の食料がみるみるとなくなっていく。
このままでは、俺の分までなくなってしまう。
仲間に入れてもらうしかない。
こいつらも、俺と同じカラスボーイだから、きっと混ぜてくれるはず。
焦った俺は、電柱の影から出た。
二人に近づき、交渉に入る。
鶏田「あの・・・」
二人は俺に気づくと、俺を馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
清掃業者1「フッ。これは俺達の飯だ。分けてやんないよ」
俺が言う前に、予想もしなかった答えが返ってきた。
同じカラスボーイのはずなのに。
清掃業者2「中途半端なカラスボーイは、
家に帰って、ひまわりの種でも食ってな!しっしっ!」
俺を睨みながら、言った。
二人とも、明らかに俺を敵視している。
鶏田「俺の話を・・・」
清掃業者2「おまえ、体が黒くないし、声がカラスに似てないんだよ!
そんな格好しただけで、カラスになったつもりか?
お前にゴミを食う資格はないんだよ。あきらめる事。これ大事」
そう言うと、二人は俺に襲いかかってきた。
鶏田「やめてくれ!」
清掃業者達の、黄色い帽子のつばは尖っている。
首を前後に動かし、その尖ってるとこで、俺にめがけてつついてきた。
清掃業者1「カー!」
清掃業者2「カー!カー!」
「チクッ!チクッ!」
鶏田「いてて!」
次々と、蜂に刺されたような痛みが、俺を襲う。
これほどまでに、つつかれると、さすがの俺も逃げざるをえない。
鶏田「やめてくれ!」
清掃業者1「カー!カー!」
清掃業者2「カー!カー!」
俺はとうとう自宅に向かって逃げた。
奴らは追いかけてこない。
俺が逃げた直後、
二人はふたたびゴミを散らかしながら食い始めた。
午後の5時。
俺は学校から帰ると、家のテレビをつけた。
ニュース。
その内容は、世界に増え始めているカラスボーイ達だった。
世界でこんな事になっているなんて・・・俺を驚かせた。
勝手に人の家に入って
冷蔵庫の食料を食い荒らすカラスボーイや、
スーパーの食品売り場を食い荒らし、
人に捕まえられそうになると、”黄色い髪型の尖ったてっぺん”で
激しくつついてくるカラスボーイなど、
世界にはあらゆるカラスボーイが増え続けていた。
そのカラスボーイ達は全員、
黒人、刺青で体を真っ黒にしている人、
自分を黒焦げにしている人、全身毛だらけで黒い人ばかりだった。
俺はそいつらを見て、
中途半端なカラスボーイでゴミを食べる自分が、恥ずかしくなってきた。
この日を境に、俺はカラスボーイをやめた。