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パーフェクトコンビニ

普通のコンビニ。
一人の客がコンビニに、弁当を買いに来た。
アルバイトらしき店員が、あいさつもせずに、ぼっと立っている。
その店員は金髪で、タバコを吸っていた。

客が、買う弁当をカウンターに置く。
金髪の店員「あたためます?」
客「はい」
店員が舌打ちをしながら、弁当を電子レンジに入れる。

しかし、5分待っても、弁当をそこからださない。
客が不安になった。
客「あの・・・弁当まだですか?」
金髪の店員「まだです。我慢してください」

店員が弁当を電子レンジから出したのは、15分後だった。
真っ黒に焦げていて、食える状態ではない。
客の怒りが発動する。
客「焦げているんですけど」
すると突然、店員が鬼の様な顔をして答えた。
金髪の店員「文句あるんでしたら、自分の家で温めればいいじゃないですか」

少し間が開いた。
客「・・・じゃあ帰ります」
金髪の店員「二度とくるんじゃねえぞ!」

客はその時、決意をした。
このコンビニを変えてやる・・・と。

 

1年後、金髪の店員は、今もバイトを続けていた。
店員は全員で4人。

この日、店長が変わる事になっていた。
コンビニの中では、店員達が会話が始まっている。
金髪の店員「最近、客が来ないな」
女性の店員「だから店長がしょっちゅう変わるんでしょ?」
普通の店員「そうだな。そろそろここも、つぶれちまうのか?」
老人の店員「そりゃこまるわい」

会話の最中、入り口の自動ドアが開く。
「ガーーッ!」
金髪の店員「なんだよ。また客かよ!せっか会話が盛り上がってたのに!」
金髪の店員の声はわざと大きくなっていた。
外まで響く声。

コンビニの中に、人が入ってきた。
その人が金髪の店員の前に立ちはだかる。
金髪の店員「何だよ?買わないんだったら帰れよ」

店に入ってきた人「店長に向かって何だ、その態度は」
その人は新しい店長だった。
しかも、1年前の客。
コンビニを変えてやろうという野望が、実現する一歩手前。

金髪の店員「す・・・すいませんでし・・・」
新しい店長「お前はクビだ」
金髪の店員「え!?」
新しい店長「1年前の屈辱は忘れてないぞ」

新しい店長は心底、嬉しそうに金髪の店員をクビにしていた。
一年前の恨みを、クビにすることにより、晴らす事が出来たから。

金髪の店員「くそっ!復讐してやるから覚悟しな!」
クビにされた金髪の店員は、舌打ちをしながら、コンビニをでていった。
他の店員たちが、恐れながらその様子を見ている。
これで店員は3人になった。

 

店長と店員の自己紹介。
新しい店長「今日からここで店長をやる、米村だ。
お前達の名前は?」

女性の店員「鼠野です」
鼠野はどこにでもいる普通の女性だった。

普通の店員「牛田です」
牛田は、やや怒りっぽいとこもあるが、普通の店員。

老人の店員「古田です。よろしくおねがいします」
古田は88歳の老人で、少しもうろくしはじめている。
レジをまかせると、時々、電話と間違える時がある。

 

店長古田が、店員に自分の方針を説明し始めた。
店長の米村「お客様は大事だ。客が店に入ったら大声で
”いらっしゃいませ”と言うんだ」
古田(老人の店員)「は・・・はい」

店長の米村「嫌だと思っても、その感情らしきものを外に出さないこと。
舌打ちなんか、見てるだけで嫌な気分だ」
牛田(普通の店員)「それであいつをクビにしたんですね?」

店長の米村「その通りだ。あれは直しようがないからな。
最後に・・・笑顔を忘れるな。いつも笑っていこう!!」
鼠野(女性の店員)「笑顔ですか。そうですよね。
無表情だと、客もあまりいい気分じゃないですよね」

米村は説明が終ると、店の奥の休憩室に入っていった。
そこにあるモニタを眺める。
監視カメラ等で、店員達の様子、声が全て分かるようになっていた。
店長の米村「さて、ちゃんとできるかな、こいつら?」

 

一度に3人の客が入ってくる。
一人は弱そうな95歳のおじいさん。
もう一人は25歳の元気な男。
最後は17歳の若い女性。

牛田(普通の店員)「いらっしゃいませ!!」
大きな声。
その声はライオンが弱い動物を威嚇するような声だった。
95歳のおじいさんが驚いて逃げだす。
牛田(普通の店員)「あ・・・お客さん・・・」

モニタの前にいる米村は首を傾げた。
店長の米村「ばか・・・脅かしてどうすんだよ・・・」

自分のミスにショックを受けた牛田が、突然泣き出す。
牛田(普通の店員)「ううう・・・俺はもうダメだ」

その牛田に、25歳の元気な男の客が、尋ねる。
25歳の元気な男「すいません。メロンパンはどこですか?」
牛田(普通の店員)「うう・・・教える事できないよ・・・」

25歳の元気な男「?」
牛田(普通の店員)「うう・・・だって俺はさっきミスしたから・・・
もう俺にそんな事を教える資格なんて、ないんだ・・・ううう・・・
どうせダメなんだ・・・俺は・・・ううう・・・」
25歳の元気な男「じゃあ他の店に行くよ。バイバイ」

25歳の元気な男は、顔をしかめて店をでていった。
泣いている牛田を見て、気分が悪くなったから。
元気な男に、泣いてる弱そうな男を見せるのは邪道だった。

鼠野が牛田に注意した。
鼠野(女性の店員「男でしょ?泣かないでよ!
牛田(普通の店員)「ううう・・わ・・・・分かったよ・・・」
牛田の涙が止まった。

カウンターに、17歳の女性が、弁当を置いた。
レジは古田がやっている。
この時、古田は店長の言った”いつも笑っていこう”
という言葉を思い出した。

古田が突然、不気味な笑顔を始める。
それはまるで、暗い部屋で
人形と楽しそうに会話をしている時のような笑顔。
17歳の女性「?」
その表情のまま、口を開く。
古田(老人の店員)「へへへ・・・温めますか?」

17歳の女性が一歩下がりながら答えた。
17歳の女性「は・・・はい」
古田が返事を確認すると、弁当を電子レンジに入れた。

そして、弁当を温めている暖めている間、大きな笑い声を上げる。
古田(老人の店員)「へーーっへっへっへ!へへへ!へへへ!」
17歳の女性「?」

1分後、弁当が温かくなった。
古田は笑いながら電子から弁当を取りだしたが、
その時にはもう、17歳の女性はいなくなっていた。
古田(老人の店員)「あれ?」
古田はショックを受けた。

これで3人の客は0人にいなった・・・が、
弁当を温めていた間、一人の子供の客が入っていた。
いつの間にか、カウンターに弁当を置かれてる。

子供「これ買う!」
しかし、古田はショックのあまり、笑顔を見せなかった。
首を横に振りながら答える。
古田(老人の店員)「わし、もう歳だから無理だよ」

子供「これ買うの!はい、1000円」
古田(老人の店員)「レジできないよ。わしはもう歳だから」
子供「あっそ!じゃあ帰る!!」
子供は弁当を買わずに店をでた。

まともな結果をだせたのは、鼠野ただ一人。

モニタの前の米村はがっかりして腰を落とす。
自分の考えがうまくいかない。
コンビニを変えたいのに、店員にその気はあるのかという思い。
それを含むいろいろな思いが、店長の米村を次の行動に移らせた。

 

休憩室で、店員3人と米村が話し合っていた。
店員達は米村に怒られたので、少し落ち込んでいる。

店長の米村「俺が手本を見せてやる」
鼠野(女性の店員)「ほんとですか?ぜひ、お願いします」
古田(老人の店員)「店長、頼みますよ」
牛田(普通の店員)「僕からもお願いします」
米村はレジの方に移動した。

 

コンビニの入り口の自動ドアが開く。
米村は自動ドアの向こうを確認。
34歳の普通の男が一人。
米村はさわやかスマイルをした。

店長の米村「いらっしゃいませ」
10年ぶりに子供と再会する母のように両手を広げながら言った。

34歳の普通の男「・・・オェ・・・」
34歳の普通の男の足が止まった。
その足は帰りそうな足だったので、米村はあせった。

店長の米村「お客さん。ご来店、本当にありがとうございます」
土下座をしながら言った。
それを見た34歳の普通の男は、帰るのやめる。
米村の土下座が効果あった。

34歳の普通の男が、カウンターに週刊誌を置いた。
34歳の普通の男「これください」
店長の米村「200円です」
34歳の普通の男「はい200円」
店長の米村「ちょうどですね。ありがとうございます」

34歳の普通の男は、週刊誌を買い終わったので、帰る事にした。
34歳の普通の男「よし、帰るか」
店長の米村「待って。寂しいよ。僕を置いていかないでよ」
34歳の普通の男「へ?」
米村が34歳の普通の男を呼び止めた。

お客さんが大事なので、心配になっていた。
米村はそのまま、客と一緒にコンビニから出て行った。
それから、米村が帰ってくる事は二度となかった。

 

モニタの前の店員3人が、口を開けたままでいた。
鼠野(女性の店員)「て・・・店長が・・・いなくなっちゃったよ」
牛田(普通の店員)「そうだね」
古田(老人の店員)「・・・」

翌日、鼠村が店長を引き継ぐ。、
金髪の店員はもういないので、売上は安定してきた。

 

古いアパート。
米村が34歳の普通の男と結婚していた。
男同士の結婚で、34歳の普通の男は嫌がっている。
米村「心配だよ、お客さん・・・」
34歳の普通の男「ひい・・・ち・・・近寄るな」

「コンコンコン」
誰かがアパートを訪ねてきた。
米村「誰?」
米村がアパートのドアを開き、外に顔を出す。

元金髪の店員がいた。
元金髪の店員「やっと見つけたぞ!」
米村「!!」
元金髪の店員はドアを蹴飛ばした。
「バキッ!」
米村があせる。

辺りを見回し、窓から飛び降りる決意をした。

飛び降りた瞬間・・・。
米村の手が掴まれた。
米村「え!?」
その手は、元金髪の店員だった。
米村「なんでだ?」
元金髪の店員「責任をとってもらうんだ!!」

 

1ヵ月後。
同じアパートで、3人の男が結婚していた。
米村と、34歳の普通の男と、元金髪の店員。

元金髪の店員が結婚した理由は、米村へ求める責任だった。
大好きなコンビニをクビにし、人生を狂わせた責任。

最初は、ただの怒りだったが、次第にそういう気分に
変わってきていた。
恋のように、理屈じゃない変わりかた。

それで米村は、仕方なく責任をとる事にした。

その結果、元金髪の店員が、”アパートで家事に専念”する事により、
もうコンビニの店員になる事はなくなったので、
コンビニの客も増えてきた。

めでたし。めでたし。

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