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アルバイト~時給1万~

コンビニで、一人の若者が求人の雑誌を買った。
家に帰ると、その雑誌をじっくり見た。
その雑誌には、社員募集はいくつかあったものの、
どうも仕事の内容が若者に向いていないのが多かった。

また、アルバイトならいい仕事があるものの、
この若者の家の家賃は高いので、生活していけない。
若者の名は蚤岡(20)。
このあいだまで、大手スーパーの社員だったが、
同僚と口げんかしてしまったので、クビになった。

蜜岡「いい仕事ねぇかなあ・・・」

その時だった。
蜜岡の目が突然止まった。
雑誌の最後のページに、時給1万円のバイトが掲載されていた。

蜜岡「おお、なにこれ。信じられない!」

時給1万だけではなく、
勤務時間も自由に決める事ができるおまけと、
さらに年末にはバイトにボーナスという嬉しいおまけがついていた。

蜜岡「おお、これだよこれ!!」

仕事内容は車の部品洗いで、楽にできそうだった。

蜜岡は早速、そこに電話した。
相手が出た。

相手「もしもし。車部品洗浄会社のクブセカです」

蜜岡「あの・・・アルバイトの件で・・・面接を」

相手「ああ。助かるよ。雑誌見たんだね」

相手は男の人だった。なかなかいい感じの人だった。

蜜岡「はい。見ました。時給1万円なんてすごいですね」

相手「すごいでしょう?嘘じゃないよ。あと、
私がここの社長だ。面接もわたしが相手だからね」

蜜岡「はい!よろしくおねがいします!」

社長「じゃあ、明日の3時頃、面接ってことでいいよね」

蜜岡「全然、かまわないです!」

社長「待ってるよ」

蜜岡「よろしくおねがいします。では、失礼します」

社長「うん」

蜜岡は電話を切った。

蜜岡「いい感じの社長だな。社員もいい人が多いのかなぁ」

翌日、光岡は時給1万のアルバイト募集の
車部品洗浄会社:クブセカ(株)に行った。
小さい会社で、解体した車が何台か前に置かれていた。
蜜岡は会社に入った。

蜜岡「失礼しまーす」

日曜日だったので、人がいなかった。
しかし、事務所に続く扉があり、その向こうには人がいそうな気配がした。
蜜岡は事務所の扉をノックした。
「コンコンコン」

中から返事が返ってきた。

男の人「どうぞー」

蜜岡は扉を開けた。
事務所の中にソファー二つと、テーブルが置いてあった。
ソファーにはスキンヘッドの男が座っていた。
蜜岡がスキンヘッドの男を見ると、
スキンヘッドの男は笑顔で蜜岡に話し掛けた。

スキンヘッドの男「待ってたよ。キミ、アルバイトでしょ?私が社長だよ」

蜜岡「はい。アルバイトです」

スキンヘッドの男の声はあの電話の声と同じだった。
この男が車部品洗浄会社:クブセカ(株)の社長だった。

社長「座ってよ。お茶の見ながら話そう」

社長はニコニコしながら言った。

蜜岡「あ、すいません」

蜜岡はソファーに腰をどっかり落とし、社長はお茶を用意した。

面接が始まった。

社長「蜜岡くんっていうのか。いい苗字だね」

蜜岡「ありがとうございます」

社長「固くなんなくていいんだよ。気楽にいこうよ」
社長はずっと笑顔だった。

蜜岡「あ・・・はい」

蜜岡は社長の笑顔を見て少し緊張がとけた。

社長「時間はどうしたいんだい?好きな時間でいいよ」

蜜岡「朝9時から夜6時まででいいですか?」

社長「いいとも。もちろん給料も時給1万だからね」

蜜岡「はい。よろしくおねがいします」

社長「じゃあ、明日からおいでよ」

蜜岡は簡単に採用された。

翌朝、蜜岡が車部品洗浄会社:クブセカ(株)に出勤した。

蜜岡「おはようございます!」

工場の中に、従業員らしき人が8人ほどいて、
蜜岡があいさつをすると、皆、笑顔であいさつを返してくれた。

従業員達「おはようございます!」

そして、奥から社長がでてきた。

社長「蜜岡君。期待してるよ」

相変わらず、社長は蜜岡に笑顔を見せていた。

蜜岡「はい!がんばります!」

仕事が始まった。
従業員達が蜜岡にスポンジと洗浄液を渡し、
蜜岡に車の部品洗いを頼んだ。

蜜岡「よろしくおねがいします!」

蜜岡は手際よく仕事をこなした。
そのまま、1ヶ月が過ぎ、待ちかねた給料日が来た。
蜜岡が、出勤してくると、従業員が蜜岡に紙をわたした。

従業員「はい蜜岡君。給料明細書だよ」

蜜岡「ありがとうございます!」

蜜岡はこの日を働きながらずっと待っていた。
時給1万の仕事を休むことなくまじめにやってきたので、
給料明細書をすぐ見ずにはいられなかった。
蜜岡は給料明細書を見ようとすると、
従業員達はどこかにいなくなった。
蜜岡は給料明細書を見た。

蜜岡「え?」

給料は0円だった。

蜜岡「そんな・・・おかしいよ」

よく見てみると、明細書の左下のほうに、
”いろいろ”という名目があって、その名目が
稼いだ分の給料(約200万)を引いていた。

蜜岡「・・・嘘にきまってる」

蜜岡は冗談だと思い、事務所にいる社長のとこに行った。
社長がいた。

社長「どうしたの蜜岡君?仕事の時間だよ。
怪我とかしてない?してたらいつでも私に相談してね。
私はキミが心配なんだよ」

蜜岡「あの・・・給料のことでちょっと・・・」

蜜岡は給料の事を聞いた。

社長「あるじゃん」

社長はあっさりと答えをだした。

蜜岡「0円ってどういうことですか?」

社長「あるけど、結果的に0円になったんでしょ?」

蜜岡「今まで働いた僕はなんだったんですか!」

蜜岡は怒った。

社長「明細書の名目を見てごらん。引かれてるでしょ?」

蜜岡「なんですか?いろいろって・・・意味分かりません!」

蜜岡が尋ねると、社長は表情を笑顔から
鬼みたいな顔に変化しながら答えた。

社長「まず、会社の借金の返済だよ」

蜜岡「?」

社長はそのまま”いろいろ”について答えた。

社長「お前の挨拶が少しムカツクから給料からマイナス!
お前の髪型がちょっと変だったから給料からマイナス!
今、不況で資金がないから給料からマイナス!
お前の声が変な声だから給料からマイナス!
分かったか!お前が悪いんだよ!あと今の世の中だ!!
俺のせいじゃねーんだよ・・・!
ちゃんとお前の給料はあったんだよ!でも引かれたんだ!
お前が悪いんだよ!世の中が悪いんだよ!」

社長は事務所の机を強く叩いた。

蜜岡「僕を騙しましたね」

蜜岡が社長にそう言うと、また社長が何か言ってきた。

社長「逆だろ?お前が俺をだましたんだよ。
電話ではいい声だったのに実際聞いてみたら変な声!
顔だってブサイクときた!見るとストレスがたまるお前の顔!
俺はな、給料を引くことで許してやってんだ!
今までお前にそのことについて文句言ったか?
言ってないだろ!まったく・・・自分だけが被害者みたいな顔して・・・」

蜜岡「最初から引くつもりだったんですね」

蜜岡はため息をしながらそう言うと、社長はまた机を叩いた。
そのまま、大声で言った。

社長「うるさいな!世の中お金が全てじゃないだろぉ?
うちの従業員みんないい人だろぉ?
お金では買えないといういい人達とお前は出会った!
誰のおかげで出会えたと思ってるんだ!俺だろー!
お前はここで大きな宝を手に入れたんだよ!
これは例えるとすごい給料じゃないか!ほら、得した!」

蜜岡「なんでそうなるんですか!」

社長「そんなに給料が欲しいのか?」

蜜岡「生活がかかってるんで」

蜜岡がそう言うと、いきなり社長が自分の首を絞めようとした。

蜜岡「何してるんですか!」

社長「俺に生命保険がある!お前はひどい奴だ!
人の命を何だとおもってる!ああ、手が勝手に自分の首に・・・」

蜜岡「やめてください!」
蜜岡は自殺しようとする社長を止めようとした。

蜜岡「もうお金はいいですから!」

今の蜜岡の一言で社長は手を止めた。

社長「本当?」

蜜岡「はい。もういいです」

社長「そうか。よし、お前はクビだ」

蜜岡「は?」

いきなり社長は蜜岡をクビにしてきた。

蜜岡「どういうことですか!」

社長「お金はもういいんでしょ?だからクビにしたんだよ。
タダ働きする奴なんて信用できないしな。
お金がいらないってことは仕事しないって事だろ?」

社長は少し笑いながら言っていた。
蜜岡の頭は混乱した。
社長の言ってる事がよく分からなかった。

蜜岡「さっき給料くれなかったじゃないですか!」

社長「あれか?あれは冗談だよ気づかなかったのか?」

社長はそう言うと、いきなりお金を机の上にドンッと置いてきた。
1万円札が200枚近くあった。

社長「お前の今月の給料だよ」

蜜岡「ください」

社長「お前、クビになったばかりだろ?あげないよ。
さっき、せっかくあげようと思ったのに・・・あーもったいないねー。
あの明細書だって、冗談なのに。本気にしちゃって、バカだねー」

社長がそう言うと、蜜岡は社長にとうとうキレた。

蜜岡「お前!」

その時、社長は背中の刺青を蜜岡に見せてきた。

蜜岡「え?」

社長「何か言ったか?」

蜜岡は恐怖に怯えた。

社長「帰んなよ。な?いい子だから」

蜜岡「はい・・・すいません」

蜜岡は会社を出た。

蜜岡「騙された・・・ちきしょう」

3ヵ月後、蜜岡はホームレスになった。

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