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ゴキブリマニアセカンド

俺の名前は五機介。ゴキブリが大好きだ。
その訳は、子供の時の事。
俺の親父が不潔で俺の家が汚くなっていて夜、俺が寝ていた時、
一匹の小さなゴキブリが上着の中で動き回っていた。
目が覚めた俺は、くすぐったい事に気付き、
上着を脱いで見ると、小さなかわいいゴキブリがでてきて、
そいつを見た瞬間、俺の心はそいつに支配された。
それ以来、俺はゴキブリしか見えなくなっていた。

 

俺が今住んでいるアパートはゴキブリの巣と化している。
あまりに数が多いので、
開けたドアや窓からは、大量のゴキブリが羽を開いて飛んでいく。
近所でも汚い俺の家の噂が広がっていた。

俺は家をわざと汚くしている。
ゴキブリが増える環境づくりに命をかけ、生ゴミを部屋中に放置している。
しかし、うじむしも集まってきて、寝ているときは
うじむしが俺の体中を動き回っていて、かゆい。
それでも、俺にはたくさんのゴキブリがいる。
こいつらとなら、どんな困難も乗り越えていけるような気がする。
俺の一日が始まる。

朝7時、俺は目が覚めた。
部屋のカーテンが閉まっていて、朝日が窓から見えなかった。
俺に朝日は必要なかった。
また、部屋を明るくすれば俺の大好きなゴキブリ達が
俺の手の届かないところに隠れるからだ。

風呂場に移動した。
風呂場の中には汚い生ゴミをたくさんつめてある。
これを10年間も続けてきたので底は見えない。
最近では、風呂の中の生ゴミが多くなりすぎて、外にはみでてきている。
俺はその生ゴミの固まりに飛びついた。
五機介「おはよう!愛してるよ!!俺のゴキブリさん達!!」
すると、生ゴミの奥から、ゴキブリが数え切れないほど多くでてきた。
俺が、生ゴミに飛びついたせいか、
俺の服の中に大量のゴキブリが入ってきた。
五期介「あははは、お前らくすぐったいぞ!」
服の中でゴキブリが動いている。
くすぐったいが、これがまた、たまらなく好きで、例えると
コーヒーを飲む人の、モーニングコーヒーと同じようなものだ。

五機介「さあお前達!お散歩の時間だよ!!」
俺はゴキブリ達に散歩を促した。
こいつらと外で仲良くし、その愛の雰囲気をこれみよがしに
外にいる人たちに見せつけるのが好きだ。

俺とゴキブリたちは家を出て、公園に行った。
公園のベンチにはカップルが何組かいた。
砂場に子供がいて、ブランコには中年男性がいた。
辺りを見回すと、ベンチが一つだけ開いていたので、俺はそこに座った。
俺のゴキブリ達もベンチに乗った。

ゴキブリといちゃいちゃした。
他のカップル達の視線が俺達に集まるのが分かる。

五機介「好きだ!ゴキブリ!!」
ゴキブリに誇らしくキスをした。他のカップル達に見せつけるように。
砂場の子供も俺を見ている。
ブランコにいる中年男性も驚いている。

五機介「どうだ!俺の女房は!お前らカップルなんて比じゃねぇ!」
俺はゴキブリを他のカップル達に見せ、勝ち誇った気分になった。
カップル達は嫌な顔をして帰っていった。

中年男性がこっちに向かって歩いてきた。
俺はゴキブリとキスをしながら、チラッと中年男性を見た。
不安だった。
こいつが、俺の女房に手をだすんじゃないかとという不安が俺を苦しめる。
俺はゴキブリを守るように抱きしめ、中年男性から離れようとした時、
そいつが話しかけてきた。
中年男性「そのゴキブリ俺に見せてくれ」
思ったとおり、中年男性は俺の妻に惚れていたようだ。
確信はないが、中年男性の目を見れば分かる。
五機介「お・・・俺の女房は浮気しねえ!あっちいけ!」
俺がそう言うと、中年男性の予想もしなかった答えが帰ってきた。

中年男性「こいつ、病気だよ。見せてごらん」
五機介「え?病気?」
俺は中年男性の意外な答えに驚いた。
五機介「た・・・助かるんですか?」
俺は誤解していたようだ。
こいつは、悪い奴じゃなかった。
また、ゴキブリの病気に気付いてやれなかった自分を
攻めたくてしょうがなくなった。

俺はゴキブリをそっと中年男性に見せた。
中年男性「嘘だよ!」
いきなり中年男性がゴキブリを新聞紙で叩いた。
中年男性「えい!」
「プチ」
潰されたゴキブリは、瀕死状態になった。
わずかだが、ピクピク動いているのが分かる。
俺は騙された。怒りと悲しみが心の中で渦巻いている。
五機介「ゴキブリーー!!」
中年男性「ばっかじゃないの?」
そう言って中年男性は逃げていった。

俺はゴキブリを抱きかかえ、叫んだ。
五機介「誰か!救急車を呼んでくれ!!俺の妻が!!」

砂場の子供がこっち見て笑っていた。
また、何組か新しいカップルが公園に入ってきたが、
俺が叫んでも救急車を呼んでくれる人はいなかった。
五機介「だめだ!時間がない!!」

俺は公衆電話の受話器をとり、救急車を呼んだ。

5分もたたないうちに、救急車の音が聞こえてきた。
「ピーポーピーポー」
救急車が見えてくると、俺は手を振った。
すると、救急車が俺の前で止まり、中から救命士がでてきた。
ゴキブリの動きが次第に弱くなっていく。
救命士「怪我人はどこですか!」
五期介「ここです!!」
救命士「え?どこです!見当たりませんが!急いで!!」
五期介「だからここです!」
俺はゴキブリに指を指した。
救命士「冗談はやめてくだい!」
五期介「冗談じゃありません!こいつは俺の妻です!!
助けて下さい!!」

救命士「はぁ?」
救命士の表情が変化した。
それでも俺は救命士に助けを求めた。
五期介「妻がいないと・・・俺は生きていけません!!」

突然、救命士は帰ろうとした。
五期介「ちょっと・・・」
俺は諦めるわけにはいかなかった。
ゴキブリを救命士の顔に近づけた。
救命士「うわっ!汚い!!そんなもの近づけるな!!」
五期介「人の命を何だと思ってるんですか!!」
救命士「いや・・・虫でしょ・・・
五期介「ああ!五期介の呼吸が!!」
俺はゴキブリがとうとう動かなくなったことに気がついた。
五期介「救命士さん!人口呼吸をおねがいします!!」
救命士「へ?」
俺は土下座した。
救命士がゴキブリに人工呼吸すれば、
意識を戻すんじゃないかと思ったからだ。
五期介「お願いです!ゴキブリに人工呼吸を!!」
救命士「帰ります」
救命士が救急車に戻ろうとした。
五期介「待ってください!!」
俺は救命士の口にゴキブリをつけた。
救命士「ギャー!!」
救命士はゴキブリを手で潰した。

俺の心に死が訪れた。
救命士は口を服で拭いながら帰っていった。
五期介「・・・終わりだ」
俺の人生はここで幕を閉じた。
自ら天国の扉を開き、羽根を広げてパタパタと跳んだ。

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