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お前クビだ。

 僕は大木カス男。何をやってもうまくいかない。IT企業への就職したが、同僚や先輩とはどうしてもうまくいかない。上司にも見放される。仕事がうまくできないからだ。このままでは、いつクビになってもおかしくはない。今日も朝からクビになることを恐れながらデスクに腰を据える。パソコンの電源をいれ、自分のIDとパスワードを入力した。手が震えている。

「あ・・・」

 パスワードを一文字間違えた。パソコンから警告音が鳴る。隣に座っていたヤクザ風の同僚がそれに反応した。
「お前、パスワード間違えたな。その音いらつくぜ」
 警告音が先輩の気に触ったらしい。大木は震えながら答えた。

  1. 「すいません、パスワード間違えました」正直に誤った。
  2. 「すいません、警告音鳴らないように改造します」と答えた。
  3. 「これから間違えないように努力します」正直に誤った。

scene1

 「明日までに改造しねぇとお前、ジ・エンドだからな」
先輩は自分のモニタに向き直した。少しでも間違った返答をしていれば会社クビになっていたかもしれない。その後、大木は午前中、淡々と仕事をこなした。このまま昼まで何事もなければよいと願っていたが、それは長く続かなかった。

 11時30分頃、トイレに行きたくなってきた。尿意はかなり強めで、とても昼まで我慢できるものじゃない。毎回トイレに行く場合は先輩に一言入れておかないと、上司に仕事をサボッているような報告をされてしまうので面倒だ。また、トイレに向かった瞬間からストップウォッチをオンにされてしまうので正直言っていつもビクついている。

「すいません、トイレに言ってきます」
「お前、トイレ行くふりして休憩とかすんじゃねぇぞ。タイム計ってるからな」

 先輩は、大木が席を立つ前にストップウォッチをオンにした。それには早く済ませろという意味も含まれている。大木は速歩きでトイレに向かった。廊下の男子トイレは不幸なことに3人ほど並んでいた。顔をしかめる。・・・5分以上経過してしまうと先輩に疑われてしまう。大木は考えた。

  1. どうせみんな小だろう・・・待つことにした。
  2. 窓から飛び降りて、外で済ませた。
  3. 女子トイレで済ませた。

scene2

 誰にも気付かれないように、窓から外へ。3分で用を足せたので5分で戻ることが出来た。待っていた先輩がストップウォッチを止めた。
「まあまあだな」
舌打ちをして、自分のモニタに向きを直した。まるで大木が失敗するのを期待していたかのように。

 休憩のチャイムが鳴った。この時間帯も決して油断は出来ない。社長が社員の行動を毎日チェックしに来るからだ。それもマークしている社員に対しては20分おきに見にくる。大木はいつくるかと怯えながら社員食堂へ向かった。販売機から食券を購入しようとして、手が止まる。間違えた選択をしたら、クビになるかもしれない。ここは慎重に選ぶことにした。

  1. カレーライスにしよう!
  2. 牛丼特盛にしよう
  3. A定食にしよう!
  4. 鯛にしよう!

scene3

 A定食を注文した。どこにでもあるような和風定食。あまり美味しくなかったが、栄養配分はバッチリだ。食後は自分の机に戻り、仮眠をとった。午前中に溜まった疲れを抜く。

午後

 午後は淡々と事務処理をこなした。途中で、鼻がむずむずしてきた。その後くしゃみが出たが、反射的に手で口を押さえることができたの。しかしその直後、真横で物凄い大きな声のくしゃみが聞こえてきた。

「ぶあくしょん!!」

 わざとらしい先輩のくしゃみだった。鼓膜が破れそうなほど大きな声。なぜか目を血走らせ、こっちを意識している。モニタに向きなおしたと思ったら、反動をつけて、ふたたび大木の方に向きなおした。

「ぶぉああああああああくしょん!!!」

 発狂したかのような巨大な声。大木は耳がキーンとなった。不自然なほど大きなくしゃみには何か意味のようなものが込められているようにも感じた。それは、先輩が口を開いたときにすぐ分かった。
「お前が突然脅かすようにくしゃみするからだろ!今のは軽い仕返しだ!だが、お陰でこっちの仕事はパーになった!社長に報告するからな」

社長室

 30分後、二人は社長室に呼ばれた。先輩がくしゃみのことを社長に報告したのだ。

「ふーん、くしゃみで仕事がパーか」

 社長は二人を交互に見ながら言った。先輩はキリッとしたまじめな表情を作って自分が正しいことを訴えかけている。大木はクビになるのを恐れ、震えていることしか出来なかった。先輩が大木を一瞥し、ゆっくりと口を開いた。

「社長。大木が突然意味不明な大声を出したので、仕事が3秒遅れました。これは会社の業績に大きく影響します。厳正な処罰が必要です」
「そうかそうか」
 先輩の報告に、社長がうんうんと、ニタつきながら2回頷いた。大木は・・・

happy

 その時、社長の目線が大木から先輩に移動した。それはまるで、一部始終を見ていたかのような目だった。目が真っ赤に充血している。おでこのほうに太い血管がいくつか浮き出た。先輩の顔が引きつった。

「し・・・社長。そんな声だした覚えは・・・」先輩が言い終える前に、社長が言葉を遮る。
「あのクソでかい声は貴様か!あれのせいで、胃が痛くなった」
「いえ、社長。その声は大木・・・」
「あれはお前の声だ」

 なんと先輩の声は社長にしっかり聞こえていたようだ。声が頭の中で一致した。先輩はもう言い逃れできない。そのまま、社長は先輩に最後の審判を下した。

「お前クビだ。で、大木・・・お前は昇格だ」

お前、クビだ

「し・・・社長ありがとうございます!!」
 この日、大木の人生のベクトルが変化した!ハッピーエンド!! そして先輩は人生を1からやりなおすことになった。

end1

「許さん」

 先輩はすぐ上長に報告した。そして10分後、最後の審判が下された。

「お前クビだ」

お前クビだ

やり直す

end2

 結局10分も並ぶことになった。戻ったときには既に手遅れ。先輩に呼ばれてきた社長が、直接大木に告げた。

「お前クビだ」

お前、クビだ

やり直す

end3

 リスクは高いが女子トイレで済ますことにした。幸い女子は入っていなかったが、意外な人物が個室のドアから出てきた。社長だった。社長は一瞬、女子かと思ったのか真っ青になったが、男だと分かると、信号が切り替わったように元に戻した。そのまま鋭い視線を大木に向けた。

「お前クビだ」

お前クビだ

やり直す

end4

 作りたてのカレーライス500円。あまり野菜は入っていなかったが、じっくり煮込んであったようでおいしかった。肉もたくさん入っていたので、十分満足できる内容だった。・・・その時、後ろに人影が見えた。振り返ると、そこに社長がいた。

「栄養配分がダメだな。お前クビだ」

お前クビだ

 その血走った目から反論させない無言の圧力を感じた。その後、大木は辞表を提出した。傍目で先輩が大口を開けて笑った。

「フハハハハ!ざまあみやがれ」

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end5

 がっつり食べた。カロリーが気になるが、やっぱり食べているときが一番幸せだと思った。幸せそうに牛丼を平らげていたその時。後ろで嫌な気配を感じる。振り向いた。一番最悪な展開が待っていた。

「お前、ブタみたいな食い方だな」
「し・・・社長」
社長だった。
「ブタはこの会社にいらん。お前クビだ」

お前クビだ

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end6

 鯛を注文した直後、すごいスピードで社長が食堂に駆けつけた。

「貴様!鯛を選んだな・・・鯛を食う・・・鯛食・・・・つまり」
そう言いながら目を血走らせ、大木に最後の言葉を告げた。
「鯛食・・・退職か!そんなにこの会社が嫌か。だったら出ていきな。お前クビだ」

お前、クビだ

 あっさりクビにされた。

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end7

「じゃあ決まりだな。お前クビだ」
 正直に言ったがダメだった。先輩が次の言葉でとどめをさす。
「大木、使えないお前のほうが、真っ先にクビになるんだよ」

お前、クビだ

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end8

「よし、やめろ。だが、待ちきれん。こっちからクビにしてやる。お前クビだ」
 強制的にクビにされた。

お前、クビだ

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end9

「トイレ?」
「いいえ、こいつの言っていることは嘘です」先輩が言った。
「そうか、じゃあ大木。お前クビだ」

 ダメだった。大木は辞表を提出してとぼとぼ会社を出て行った。

お前、クビだ

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