毛が生えた桃
「じゃあ、芝刈りにでも行って来るよ」
「私は川へ洗濯しにいこうかの」
おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯をしに行った。
汚い川だった。上流はるか先から得体の知れない物質などで、変色しひどく汚染されている。こんな汚い川でおばあさんは毎日洗濯をしているのだ。服は乾いても匂いが残ってしまう。それでも洗わないよりかはマシだった。
しばらくすると、川上からどんぶらこどんぶらこと、大きな物体が流れてきた。
「あら、あれは何かしら?」
それは大きな桃だった。汚染された川と同化しているように見えているのは、桃に毛が生えているからである。しかしおばあさんは目が悪いのでそのことにまったく気づかない。生えている毛は大変細く弱っているちぢれ毛なので、一定時間を過ぎると抜けていってしまう。
「美味しそうだ」
持ち帰ろうとすると、重くて持てなかったが。うまく転がすことができたので、なんとか動かすことができた。家に戻ると、おじいさんはすでに芝刈りを終えていたようで、中で茶をすすっていた。大きな桃を目の当たりにし、おもわず声を張り上げる。
「おお!でけぇ桃だな!」
変態出生
桃を二つに切る必要はなかった。何と中から乞食のような人が身を食ってでてきたのだ。桃はあっという間に男の胃袋の中に納まっていった。
「あー、桃うまかったぜ」
「ば・・・化け物!!」
男はおじいさんとおばあさんには目もくれず、外に出ようとした。
「ど・・・どこへ行く気?」
おじいさんが勇気を振り絞って男に質問すると、男は笑顔で答えた。
「俺はギャルっていうか・・・桃太郎!鬼退治してくる」
男はおじいさんを喜ばせるつもりか、自らスカートをめくって答えた。気持ち悪い太ももをあらわにする。イチゴのパンツが見えた。おじいさんは吐きそうになったが、ぐっと堪えた。
「サービスだよ」
桃太郎と名乗る男はそのまま家をあとにした。鬼胎児が始まる。
変態出陣
桃太郎は、予測していた。鬼胎児へ行く途中にイヌとキジとサルに出会うことに。まずは犬に出会う事を予測し、四つんばいの体制になる。犬の心を開くためには、同じ体勢をとる必要があるからだ。そのまま前進した。
早速犬に出会う。気がついたのはイヌのほうが先で、こっちに向かってくるどころか恐怖におののき、逃走を始めた。桃太郎は逃がすまいと速度を上げ、犬を追いかけた。距離を射程圏内まで詰めると、飛びついて犬の動きを止めることに成功。
「・・・キャイ~ン」
犬は恐怖で震えているだけで抵抗できなかった。
「安心しろ。俺は桃から生まれた桃太郎。きびだんごくれてやるぜ」
桃太郎は腕を自分の口の中に突っ込み。胃液にまみれた桃のカスを吐き出してきた。それを捏ねて丸めると、無理やり犬に食わそうとする。犬は嫌がった。
「何だよ。俺の気持ちを受け取れないのか、じゃあこれでとうだ」
パンチラショーが始まった。イチゴがたくさん見える。犬はこんなもので喜ばないが、従うしかなかった。この後、サルも同じ要領で無理やり従わせる。最後はキジになるが、桃太郎の動きはここで止まった。
「困った困った・・・これではキジの心をつかめない」
桃太郎は真剣な顔で深く考え込んだ。イヌとサルは隙をついて逃げようとするが、桃太郎が今にも飛びついてきそうな”気”を放ったので諦めた。
「いい事思いついたぞ!!」
日が暮れたころに、石油でも見つけたような表情に切り替わる。桃太郎の目は生気をを取り戻したように輝いた。
突然意味不明な声の練習を始めた桃太郎。
「カー!カー!」
イヌが怪訝そうなな目でこちらを見ている。
「キジはあきらめたんだよ。カラスにすんだよ納得したか」
何と桃太郎が思いついたのは、キジを諦めてカラスを仲間にすることだった。
カラス
こんな時代にもある生ゴミ置き場。腐敗臭が漂う中、予想通りカラスがそこに群がっていた。
「めんどくせぇ、こいつら全員連れてくか!」
桃太郎はカラスの鳴きまねをしたが、無視される。あっけなかった。キレた桃太郎は地声で相手を脅かすとカラス達はひるんでしまう。桃太郎についていかざるをえなかった。逆らったら何されるか分からない。
これで仲間が全員そろった。いよいよ鬼退治が始まる。
鬼退治
桃太郎達は鬼退治の準備をしていたが、それが大きな間違いだった。ガタイの良い桃太郎はすべての行動が目立っていた。行動が筒抜けで、奇襲をかけられてしまった。鬼の数は1000を軽く超えている。それだけ桃太郎の力を警戒していた。
犬と猿は勇敢だった。鬼に戦いを挑む。桃太郎は今までの勢いはどこにいったのか、ブルブル震えている。カラス達もいつのまにかどこかに飛び去っていた。鬼の攻撃。犬と猿が金棒に叩きつけられる。とても見られる光景ではない。
そのとき、桃太郎に異変が起きた。苦しみもがきながらメタボのようなお腹を抑えている。
「う・・・生まれる!!」
メタボが破裂し、何かでてきた。
生まれてきたのは爆撃機。実はこれ、仲間にできなかったキジの進化形だった。そもそもキジ自体、この世にまだ存在していなかった。最初から桃太郎のお腹の中にいたのだから。そういう意味ではカラスを仲間にできたのは正解といえる。もしキジを探していたら一生かかっていたのかもしれない・・・。
キジは今まで腹の中で力を蓄えていて、機を伺っていた。今がその時だった。
一瞬にして、鬼を全滅させた。圧倒的な攻撃力。桃太郎ご一行も巻き添えを食らう。そして、キジっていうか爆撃機は何事もなかったかのようにその場を去っていった・・・。
町に平和が訪れた。