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目覚まし時計すごいヤツ

町に繰り出し、ナンパを失敗した回数は1万を超え、
スリムになろうとダイエットをしたらリバウンド効果で体重が増加。
出会い系サイトに自己紹介文を載せると誹謗中傷が帰ってくるだけ。
雨に打たれながらデブは叫んだ。
「ゲギョギョギョギョーーー!!!!」

泣きながら地面を叩く。
鼻水を滝のように流し、贅肉を揺らしながら。
ブルンブルンと。

 

 

 

「ねえ、あんたの隣に新しい人が引っ越してくるみたいよ」
「うん。話は聞いてる」
「ついこの間、さなえさんとお別れしたばかりなのに・・・」
「新しい人でも、うまくやっていけるよ」
「だったらいいんだけど・・・由香、私心配なの」
由香の友人は心配そうにしながら部屋を後にした。

さなえとは友人同士で仲良くやってきていたが、
仕事の都合により引っ越してしまった。
困ったときは相談相手にもなっていただけにつらい。
由香は無理に平静を保った。

夕方になると、隣から物音が聞こえた。
新しい人が引っ越してきたので、引越しの作業が始まっている。
荷物を運んでいるのは業者だが、時折像が歩いているかのような
足音が聞こえてきたので、何だろうと思った。突然、その足音がこちらの方に向かって大きくなってきた。
由香の部屋に向かって歩いてきているらしい。
ドアの前でピタリと止まり、ノック音がした。
「コンコンコン」
「はい」
由香がドアを開けると、花束を持った大デブ男が目の前に立っていた。

ブタコロン介

両手で由香に花束をさしだすと、口を大きく開いた。
「はじめまして!お隣に引っ越してきたブタコロン介といいます!
僕はとっても頼りになる男ですので、よろしくおねがいします!」
「は、はい。由香と言います。よろしくお願いします」
由香が花束を受け取り軽く頭を下げると、ブタコロン介は嬉しそうに体全体で
自分の気持ちを表現した。

腹の肉をブルブルと揺らし、両足がスピード感のあるびんぼうゆすりのように
動いている。
「それでは」
由香はドアを閉めた。閉めるとき、ドアの隙間から垣間見えた
気色悪い笑顔は大きく目に焼きついた。

 

夜になると、壁の方からノック音がけたたましく聞こえてきた。
こんな時間に何だろうと耳をあててみる。
「由香ちゃん?」
ブタロコンが壁越しに話しかけてきた。
とりあえず気づいていないフリをする。

しかしこの先、ブタコロン介の生活習慣が由香を困らせるとは
思ってもみなかった。

 

翌朝6時、由香が目を覚ます前から、隣で強烈な音が鳴り響いた。
「ジリリリリリリリン!ドドドドドドドン!ギュルルルルルン!!」
目覚まし時計を改造したような音だ。
通常の音から、滝が流れるような音に変わり、ドリルの音へと変化した。
これには由香も目をさまさないわけはなかった。まだ音は止まらない。

「バリバリバリバリ!ズドンズドンズドンズドン!キュルキュルキュルキュル!!」
隣にいるブタコロンが起きて止めない限り、この目覚まし時計は止まらない。
「ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!キキキキキキーーー!」
音は最終的にガラスを爪で引っかくような音にへと変わった。

時間はすでに10分が経っている。由香は耳を押さえたまま身動きができなかった。
これが毎日続くなんて考えると。体がもたない。
ブタコロン介がようやく目を覚ましたのは20分経ってからだった。

音がピタッと止まり、ものすごい大きなアクビをする。
壁越しとはいえ、迷惑なくらいはっきりと聞こえる。
「ぐああああああああああ!!」
まるで重傷でも負ったかのような大声だ。一歩間違えば、
本当に怪我でもしたんじゃないかと信じてしまう。

 

音が収まると、間もなく由香は苦情を言いにいく。
「お前、うるさいんだよ!」先人だった。ブタコロン介にどなっている。
「ゲギョゲギョギョー!!僕をせめないで!明日は音ださないから!」
泣きながら謝った。
「本当だな!」
そのやりとりを見ているだけで由香はホッとした。
これなら自ら苦情を言わなくてもいいだろうと安心し、部屋に戻った。

 

その夜。ふたたびブタコロン介が挨拶に来る。
「こんばんは。由香さん、今朝は音が凄かったようで・・・下から苦情が来たんです。
だから、ひょっとしたら由香さんにも迷惑がかかったかなと思いまして・・・」
すでに半べそ状態だ。答え方次第では、今朝に聞いたあのゲギョゲギョという大声で
泣かれるかもしれない。こんな時間になかれたらまた近所迷惑だ。
「いいえ。全然迷惑じゃなかったですよ・・・ははは」
「え!?そうなんですか!!」

ブタコロン介は喜んだ。
「ピョン!ドシーーーーーーーーーーン!!」
飛び跳ね、着地の勢いで地面を揺らす。夜の10時だというのにかまわず揺らす。
「ありがとう!ありがとう!!ゲギョギョギョギョギョ!!」
例の叫び声だ。
うれし泣きでも叫ぶ事が分かったので、もう由香はもう手の打ちようがない。
つまりどっちに転がっても結果は同じだった。

「うるさい!」
下から聞こえてきた。ブタコロン介はピクッと反応したように腹の肉を動かし、
おとなしくなる。
「じゃ、またね由香ちゃん」

 

そして次の翌朝、ブタコロン介は自動的に救急車を呼ぶ
もっとすごい目覚まし時計を使った。

朝の7時になると、PCでプログラムされたものが、自動的に
119番に電話をかける。
相手が出ると、あらかじめ録音していた音声が再生された。
そして間もなくサイレンが聞こえてくる。

サイレンは、近づくにつれてどんどん大きくなる。
これがブタコロンの狙いだった。
救急車のでかいサイレンで目を覚ますという寸法だ。
もちろんブタコロンの事だから、その程度では目が覚めない。
本人にとっては軽いミスだが、まだ保険を用意してある。

保険とは、救急隊員に起してもらうことであり、ドアには鍵をかけていない。
「おい、大丈夫か!」
救急隊員が二人やってきた。部屋に入ると、血まみれ?だと思われるブタコロンが
仰向けなっていた。
胸にはナイフのようなものが刺さっている。

「こ、これは大変だ!!」
救急隊員二人はブタコロンを抱えようとすると、不自然にいびきが聞こえてきた。
「ブヒ、ブヒヒヒン・・・・・・プシュ~~~~」
「あれ?」
もう一つ不自然な点を見つける。
胸にささっていたと思われたナイフは、よく見るとダンボールで出来ていた。

「こいつ、騙したな」
血だと思われたものも、実は豆板醤で、
救急隊員はいったいコイツ何が目的で呼んだんだ?と頭の中で怒りが目覚めた。
殴りかかろうとすると、横で後輩が
「先輩、とりあえずこいつ起しましょうよ」と言ってきた。
「くっ・・・そうだな」
体を何度かゆすると、ようやくブタコロン介が目を覚ます。

「いたずらはやめてくれるか?」
先輩の方の緊急隊員が言った。なんとか平静を保っている。
「あ、おつかれさまです。もうこの通り大怪我は直りました。
また明日怪我するかもしれませんが、どうか怒らないでくださいね」
ブタコロンが言い終わる前に、後輩の緊急隊員がパソコンがある事に気づく。

「先輩、これで自動的に呼んだみたいですね。やられましたよ」
「そうかご苦労」
先輩の方が鋭い視線をブタコロンに向ける。
「おい、デブ屋郎!お前は俺の個人的なブラックリストに入れた。
今回はなんとか許してやるが、次はないと思え」
「そんな~じゃあ僕はこれからどうやって朝起きればいいんですか~~?」
「そんなもん、誰かに起してもらえばいいだろうが!」
「あは、そっか!!」

 

救急車が引き返すと、ブタコロン介は壁に顔を近づけた。
「ごめんね由香ちゃん。へんな二人組みの声、ちょっとうるさかったね」
返事はない。由香は、ここであんたがよんだサイレンの方がうるさいわよ!
とでもつっこみを入れたい気分だが、どうにか抑えた。

ブタコロン介が招く、由香の不幸な生活はまだ始まったばかりだった。

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