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テスト購入

俺は、自動販売機の前に立っていた。
機械は信用できる。なぜなら嘘をつかないからだ。
ジュースをコンビニで買うなんて恐ろしくて出来ない。
店員の巧みな話術によって混乱させられ、気がつくと120円のジュースを
1200円で買わされていることだってありえるからだ。

誰が利用するかそんなもの。

 

「離婚よ!」
「ちょっと待て、俺が何をした?」
「あなたがおかしいからよ!近所から変な目で見られるのはもうウンザリ!」
「おいおい、俺はただ、人が信用できないだけだ」
それは夜のことだった。突然妻から離婚を切り出され、俺が止める間もなく出て行った。
・・・・そういえば、最近家のものが少なくなってきたなと思っていたが、
そういうことだったのか。

残っているものを一通り確認してみたが、生活していくには十分だった。
テレビは残っているし、冷蔵庫だってちゃんとある。
問題は一つ。誰が飯を作るかだけだった。家には俺しかいない。料理を作るのは苦手だ。

じゃあ買いに行くのかコンビニへ?冗談じゃない。
しかし、生きていくためには利用せざるを得なかった。

 

飯の時間になった。まず、手袋をはめる。
もしかすると店のものには毒が塗られているかもしれない。その時のためだ。
次に護身用ナイフを身につけた。
買い物をしている時、金を持ち歩いているので、当然店員に襲われ、金を奪われる可能性がある。
その時にこの護身用ナイフが役に立つのだ。

 

家をあとにして、コンビニへ向かう。準備は万端。
コンビニ入ったら、まずテスト購入をしようと俺は思った。
なぜなら、テストしなければ本当に安全に品物を購入できるかどうか不安だからだ。
テストをすることによって、店員が信用するに値する人物かどうかを
見極めることだってできる。

コンビニの前についた。まずは自動ドア。
ガラス越しに店員が待ち構えている。怪しい。
まるで”自動ドアをさあ、お通りなさい”と蟻を毒の塗られた砂糖に
おびき寄せるかのような雰囲気だ。もしかすると、自動ドアに罠が張ってあるかもしれない。

しかし中に入らなければ食料の確保はできない。
自動ドアに歩み寄り、開くのを待った。
開いたと同時に、俺はすばやくバックする。ギロチンが落ちてくる事を想定してのことだ。
「よし!」
ギロチンは落ちてこなかったので、そのまま店に入る。

「いらっしゃいませ」
店員はにこやかに挨拶をしてくれたが、何かウラがありそうだ。
その微笑みで俺を油断させておいて、うまく騙すつもりなのだろうか。
何も知らない客ならすぐに騙されるだろう。俺は違う。最初から疑っているから
騙されることはまずない。見抜いているぞ店員よ。

俺の仲で、店内を歩くときは、必ず視界に店員の姿を映すというルールを決めた。
”もしかすると好きなんじゃないの?”と誤解されても
かまわない。
相手は親でも妻でもない。赤の他人だ。絶対に信用してはならない。
おにぎりを手に取る。うまそうだ。しかし毒が盛られているかもしれない。
だが、俺が今やっているのはテスト購入。
本番購入がうまくいくためのつなぎに過ぎない。

 

おにぎり3つと、お茶を持ってレジへと向かう。カウンターに置くと、俺は真剣な目をした。
「テスト購入がしたい」
「はい?」
「だってうまくいくかどうか分からないでしょ?」

店員は一瞬、冗談だと思って笑ってみた。
「・・・ははは」
俺は表情をまったく変えない。冗談を言っているわけではない。真剣なテスト購入だ。
たちまち店員は冗談ではなかったことに気がつく。
「テストがうまくいったら、ちゃんと本番購入するから」
「お客様、当店ではそのような事はできません」
「そうですか・・・・・・それは困りましたね」
俺は下を向いて考え込んだ。何か他にいいテスト方法はないかと。

 

思いついたのは、とりあえず、お金をカウンターの上に置いてみることだった。
お金を置いてみて、この先どうなるのか確認する方法だ。
もし店員が金に飢えた悪人であればすぐに手が伸びるかもしれない。
それを知らないと知るでだけでも、この先の展開が全然違ってくる。
もちろんおにぎりとお茶を買うわけではない。お金をカウンターの上に置くだけだから。

俺は何も言わず、千円札をレジの上に置き、店員を見つめた。
「はいおにぎりとお茶ですね」
「買わない」
「え?買われないんですか?」
「ここに1000円札がちゃんと置けるかどうかテストしているんだ」
俺がそう言うと、店員はじゃあなんでこっち見ていたの?という目で返す。
「俺は1000円を持っているんだと、ちゃんとあんたに教えてやったって意味だよ。
お金が足りないのに買ったら、そのまま逃げるかもしれないでしょ? 」
「そ・・・そうですか」

1000円札をサイフに戻した。店員は金に飢えてはなさそうだ。
だが、次は分からない。もしここで店員が俺より力で有利な立場だったら?
きっと金を奪って逃走するだろうな・・・・。俺は頭の中で店員が悪魔になった姿を描いた。
ふたたびお金を無言でカウンターに置く。
今度は50万円と、包丁だった。

店員がそれを見て驚いた。
「え!?」
「やってみろ。やれるもんなら俺の命と金を奪って逃走してみろ」
俺は無防備だというサインを送るかのように両手を広げ、店員に向かってそう叫んだ。
「ちょっと、お客さん何を考えているんですか・・・!」
命がけで、この店員が信用できるかどうか見極める・・・これは俺の戦いなのだ。戦いという名のテスト購入だ。

 

カウンターの上に置かれた50万円と包丁。
そいつに一番目をギラつかせていたのは、俺でも店員でもない。
そいつは予想外の人物だった。

「いっただきー!!」

自動ドアが開くと同時に、ものすごい勢いで原始人のような男が入ってきた。ルンペンだった。
50万円をつかみとると感謝している目で俺を見た。
俺と店員のやりとりを見ていたらしい。たちまちルンペンは店を出ようとした。

「うあああああ!」
叫んだのはコンビニの店員だった。包丁を手に取り、自殺を図ろうとする。
「何をするんだあんた!」
「いつまでたってもこのコンビニの店長になれない!
だから今日みたいな不思議な出来事が起こるんだ!ならばいっそ死んでやる!」

俺の頭の中で3つ選択肢が、行動を迷わす。間違えれば取り返しのつかないことになるだろう。
ルンペンを追って50万円を取り戻すか、コンビニの店員を説得するか、
あるいは・・・・。

  1. ルンペンを追いかける。
  2. 店員を説得する。
  3. 右の鼻の穴に左手を入れて、左の鼻の穴に右手を入れる。

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