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トイレに住む男(危険度MAX)

食中毒で腹を壊したサラリーマンが公園のトイレにやってきた。
今まで、その苦しさと戦いながらもようやく長い時間をかけて見つけた
トイレなので、砂漠の中でオアシスを見つけたような思いだった。
「あー、本当に助かった」
しかし、中に入った途端、個室のドアが閉まっていることに気づく。
個室は一つしかなかった。
少し待たなきゃいけない状況を知ったサラリーマンは顔をしかめた。
ため息が漏れる。

10分も待ったが、なかなかでてこない。
クソをしている音がまったく聞こえないので少しおかしいと思った。
「遅いな・・・」
サラリーマンはわざと聞こえるように言ってみた。反応がない。

その間にも激しい腹痛がサラリーマンを苦しめる。
「痛ぇ・・・」
もうこれ以上我慢はできない。ドアを叩くことにした。

「すいません、まだですか?」
ドアを叩いてから言った。少し間を置いてから返事が返ってきた。
「何だよ。今食ってんだよ」
ガラガラ声だった。その声質から察するに、まともな人間ではないことが分かる。
「お腹が痛いんです。用を足したいんです」
「だったら、トイレ探せよ」

サラリーマンは思った。ここがトイレなんだけど・・・、と。
「他にトイレがないんです。ここしかないんです」
「ここは俺の家だから、トイレじゃない。失礼な奴だな。
人の家をいきなりノックして、トイレ扱いまでするなんて、
社会のマナーも知らんのかあんたは」
壁を強く叩く音が聞こえた。怒っているらしい。

「とにかく開けてください!」
「食事中だ静かにしてくれ!」
トイレの男はコンビニで盗んできたパンをくちゃくちゃと音を
鳴らしながら食べている。
いらなくなった袋はトイレに流した。水の勢いある音がトイレ中に響く。

 

「もうだめだ!!」
サラリーマンは顔をゆがませ、とうとう電池がきれてしまった。
もちろん、トイレにいる男にもその匂いが届いてきた。
「ちょっと人の家の前で何やってんだ!」
「ドアを開けてください!!」

「そこに何があるか匂いで分かるぞ!俺はそういう趣味はない!
俺は清潔な人間だ!一日4回風呂に入っている。
風呂の水は一日30回も取り替えている。流れる音がうるさいけどね」
「ドアを開けてください!」
サラリーマンは必死だで、トイレに住む男の自己満足を聞いている余裕がない。
ドアを何度も叩く。電池はすでに切れているので、クソがまだ増え続けている。

「こらこら、ちらかすんじゃない!てめえのやっている事、それは犯罪だ!
何度もいうけど、ここはトイレじゃない。俺の家だ。
これからトイレに行くから、もういい加減にいなくなってほしいんだけどね!」
「だから、ここがトイレです!開けてください!」
「無理だ」

トイレの男はそう言うと、壁をよじ登って個室からでてきた。
サラリーマンが急に大きく口を開ける。驚いているのだ。
その異様な姿に。
新聞紙で自分の体をくるめているミイラ男のような格好だった。
「これから、トイレに行ってくるから、その間に勝手に人の家に入るなよ」
トイレの男はそういい残し、ここのトイレを出た。

「キャー!!」
今の悲鳴に、サラリーマンは何事かと思い、ようやく口を元に戻した。
聞こえてきたのは、外をでてすぐ隣にある女子トイレからだった。
そして、トイレの男の今までとは違うあせっている口調の声がきこえてきた。
「誤解だ!俺はここの住民だ!」
新聞紙でくるまれているミイラ男のような格好で、
そんな事を言っても説得力がなかった。女性の怒りはおさまらない。

トイレに住む男は顔を何度もたたかれ、、最後にはサツにしょっぴかれた。

 

「ざまあみろ」
サラリーマンはそういってトイレの個室のドアを蹴り倒した。
もう、ここにはあの男が戻ってくることはない。
トイレに平和が訪れた。

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