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ナンパテクニックハンサムボーイ 目標100

この街の夜はいつもそうだった。
地べたに座っているナンパ待ちの若者達。
また、その中から好きな人を選んでナンパで拾う若者達。
そいつらが毎日単調なナンパ生活の日々を繰り返していた。
その生活のバランスは長きにわたって保たれていた。

そう、あの男が街に現れるまで。

 

それは夜の10時だった。
駅前では若者達で賑わっていた。ナンパする者。
ナンパされる者。レンタルCDを借りたときのように、
どうせ時間がくるとすぐ終わるカップルが、次々と出来上がっていく。

ナンパする割合は男性が多かった。
男性は通りすがりの女性だろうとかまわずナンパする。
成功確立は8%。これでもまだ高いほうだ。
ブサイクだと1%にも満たなくなる。これが現実だった。

 

女性達の様子が変わった。
ナンパ中の男達が急にどうしたんだよという目をする。
女性達の視線が皆、同じところにいっている。
魔力にでも取りつかれたように。

それはスーツの姿の男だった。
スポーツマンみたいな髪型をしていて、身長190cm。
女性達に見つめられて困っているそのハンサムフェイスは
余計、魅力的に見えた。
女性達「あのお方、困っている顔もステキ・・・」

ハンサム「ふう」
ハンサムはため息をついた。
自分がこんなにハンサムで背が高いなんて、なんて罪深いんだという
罪悪感もこめた、そういうため息だった。

ハンサムはちょうど横浜で買い物をしてる最中だった。
たかる女性達をかき分けて前に進む。
無視されたナンパ中の男性達がンサムを睨んでいる。
ハンサム「チビは辛いね・・・」
ハンサムはバカにしたような顔で男達を見下ろした。

女性達「ステキ!背が高くて最高!」
女性達「あなたの名前は?」
女性達ん質問にハンサムは答えた。
ハンサム「風村 天郎」
女性達「風村 天朗・・・ステキな名前だわ!!」
女性達「天朗様!天朗様!」

女性の数がさらに増えた。これでは前に進めない。
天朗はハンサムスマイルをする事にした。
ハンサム「ニコッ!」
女性達「キャー!ステキな笑顔!!」
ハンサムスマイルで女性達の動きが止まった。

そのスキに天朗が女性をどかして進む。
今日はゆっくり買い物をしたいのだが、そうもいかないようだ。
横浜は人は多すぎた。天朗にとって窮屈だった。

しかし、運命とは皮肉なものなのか、天朗はこれから
まったく対照的な人物とあう事になる。
それは女性にはモテモテだが、顔が恐ろしいほどブサイク。
身長が高いのはいいのだが、恐ろしく肥満体。

それが天朗に近づいたのはすぐだった。
目的の店に入ろうとした瞬間、激しいゴリラのような声が響いた。
「うおおおおおおおおお!!!」
天朗「ん?」

振り向いた。
220cmの巨体がそこにあった。
恐ろしくブサイクなのに、なぜか女性達が集まっている。
天朗にもいつのまにかふたたび女性達が集まっていた。
ブサイクが口を開いた。

ブサイク「ウワサを聞いてな、5年ぶりにこの街に戻ったんだ。
てめえが、この街の男達を不要な人物、リコール彼女なしに変えた
ハンサムだな?」
天朗「なんだいブサイク?」
天朗は余裕の笑みを返した。

だが、天朗の頭のではいろいろ考えている。
なんでこんなブサイクに女が集まるのか。
身長が高いからとはいえ、デブは女性にとって嫌なはずだ。
性格もよくなさそうだし、自分に酔っているバカだ。
しかし、その答えはすぐに返ってきた。

ブサイク「何で俺がモテるか分かるか?」
天朗「さあ・・・」
ブサイク「こういう事だよ」
ブサイクはそう言うと、札を何枚か上に放り投げた。
女性達「お金!お金!!」
ブサイク「そして俺の力があれば、弱い奴は俺に逆らえねえ!
力のない男達は、自分の彼女を俺に差し出すのさ!」

ブサイク誇り高い笑みを浮かべると、天朗に顔を近づけた。
近くで見ると、思わず目をそらしたくなる。

ブサイクの顔

天朗は目を合わせる事ができない。
こんなブサイクに見つめられるだけで、身動きが取れなくなる。
あまりにも気持ちが悪すぎて、どうしたらいいか分からない。
天朗はその苦しさに堪えながら、ようやく口を開くことができた。
天朗「そ・・・その顔を・・・近づけないでくれ・・・」

ブサイク「醜いんだったら醜いって言えよ」
ブサイクは顔を離した。天朗はホッとした。
ブサイク「とにかく、どっちがモテるかはっきりしなきゃならねえ。
そこで・・・勝負しようじゃないか!!」
天朗「勝負?」
ブサイク「ルールは簡単。現在の時刻は9時。
今から100人をナンパする勝負ってのはどうだ?」

ブサイクはふたたび顔を近づけようとした。
どうも話すとそういうクセがあるらしい。話にインパクトをつけるために。
天朗は後ずさりした。
ブサイク「どちらかが100人集まった時点で、勝負は決まり。
勝者はケータイで敗者に”100人集めた”と報告する。
お互いここに戻って、双方の数を確認する。いいか?」
天朗に迷いはなかった。
天朗「いいよ」

ブサイクとハンサムのナンパ対決が始まった。
ブサイクと天朗はまったく違う方向に走り出した。
天朗は横浜駅前ベンチ周辺で足を止めた。
天朗「カモン!!」
天朗の声で女性は一気に40人ほど集まった。

天朗目標達成まであと60人。
天朗「ちょろいな。10分も経たないんじゃないか?」
問題はここからだった。
集まっていた40人の女性達が、少しずつ数を減らしてきている。
原因は女同士の勝手な戦いによるものだった。

その戦いとは、勝者が美人で敗者がブスだという簡単なもので、
敗者はさっさと諦めて、天朗から離れるという内容だった。
その結果、数は40人からわずか13名の美人が残った。
天朗目標達成まであと87人。
天朗は舌打ちをした。さっき言った事を後悔している。
天朗「なんじゃこりゃあ・・・!!」

 

建物で入り組んでいる交差点は、通り過ぎようとすると
横から何がでてくるか分からない。
女性4人組が通り過ぎようとしたその時。それが現れた。

もっとブサイクな顔

女性達「キャーー!!化け物!!」
このブサイクの顔でどれだけの女性の動きが止まったか、
それは星の数ほどだった。
ブサイクは金をばらまいた。
ブサイク「はら金だ金だ!!そんかわり俺と付き合え!!」

金の力により、3人の女性がブサイクの虜になった。
残る一人は、金に困ってないせいか、逃げようとしている。
ブサイクは電柱を殴った。大きな音を立てて、電柱にヒビが入った。
その音を聞けば、怖くて逃げることさえもできなくなる。
ブサイク「フン。こんなモンさ」
ブサイク目標達成まであと96人。

次のターゲットが現れた。16人もいる。
ブサイクは大きく息を吸い込んだ。
女性達が交差点を通ろうとすると、ブサイクは死角から現れ、
わざとらしく大きく叫んだ。
ブサイク「アイラブユー!!!!」

鼓膜がやぶれそうな大きな声に、逃げる余裕さえも与えない。
金が宙に待った。16人全員が飛びついた。
ブサイク「金だ!金がすべてだ!!」
ブサイク目標達成まであと80人。

 

天朗「やっと30人か・・・」
天朗はようやく30人集めた。横浜駅前の女性の数が少なくなった。
そろそろ場所を変えるしかない。
天朗「よし、お前らついてこい」
30人をつれて、その辺にあった階段をありる。地下街だ。
地下街には買い物をする人達で溢れている。

天朗は首を鳴らす。ここは、ナンパしがいあるのだ。
かっこいいポーズをして、ハンサムスマイルを送った。
女性達「キャー!すごいハンサム!!」
天朗「よーし勝てるぞ!!はははははは!!!
地下は明るいので、天朗のハンサムスマイルがはっきりと見える。
女性達は磁力に負けたように天朗に集まってゆく。

150人ほど集まったが、やはり例の戦いが始まってしまい、
残ったのは40人だった。
天朗目標達成まであと30人。

ただ、トラブルが起きないわけがなかった。
女に捨てられた哀れな男達の、鋭い視線がいくつも増えていた。
その視線は女を集める度に、増えてゆく。
もちろん、天朗はそれに気づきはじめたいた。それは経験によるものからだ。
100人を集めるためには、殴りあいも避けられない。

天朗「あーあ!モテる男は辛いぜ!!」
天朗は、大きな声で男達を挑発した。
手につけられない数に増える前に、排除しておく。
天朗はいままでもそうやって男達を殴り倒してきた。

天朗の挑発に男達はまんまと乗った。
男達「この野郎!!ハンサムだからって!!生意気な!」
男達の攻撃が天朗に当たる前に、天朗は素早く男達を殴り倒す。
目にもとまらぬ早いパンチが炸裂。
時折、ハンサムスマイルを女性達に向けながら、男達を倒してゆく。
女性達「キャーかっこいい!!」

喧嘩が終わると、いつのまにか女性が20人増えていた。
これで残り10名。天朗の勝利は目前だと思われた。
同じ時間、実はブサイクも90人集めていた。

 

時を少し戻す。ブサイクはもっと効率よく人を集めるために、
人が良く通る繁華街でナンパをしていた。
鼓膜を刺激する強烈な叫びが、街中に響き渡る。
ブサイク「金をやるぞ!!金をやるぞ!!ただし男はダメだ!!」
2人、4人、8人・・・うなぎのぼりに集まる数を増やしていく。

そして、ブサイクに集まった女の数は50人になった。
男達の視線も気になるが、やはりブサイクが強そうなのでなかなか
手をだす奴がいない。
ブサイク「金だ力だ!」

カップルを見つけた。ブサイクはカップルの男に声をかけた。
ブサイク「お前の彼女くれ」
男「嫌だよ・・・」
男は首を横に振った。男の横の女が睨んだ。
女「誰があんたみたいなブサイクなんかと!!」
目の前で金がヒラヒラした。ブサイクには金がある。

ブサイク「俺はブサイクだけど、なんでもあるぞ」
女の目の色が変わった。金の魔力だ。
男「ちょっとあんた!人の彼女に・・・」
男が言い終わる前に、ブサイクは口を大きく開けた。
ブサイク「ありがとう!!!」

鼓膜を振動させるような、ありがとうだった。
男「・・・ひっ」
ブサイク「ありがとう!!ありがとう!!ありがとう!!」
ブサイクの目は笑っていない。大声で脅しているのだ。
男「ど・・・どういたしまして・・・ひぃぃ」
男は素早く逃げた。

ブサイクはナンパのためなら手段を選ばない。そして無差別ナンパ。
頭のよさそうな、いかにも遊んでない女性にも声をかける。
ブサイク「俺の彼女になれよ!!」
相手は10人組だ。ほとんどがメガネをかけている。
女性達「興味ないね」
ブサイク「金ならたくさんあるぞ!!」
女性達「別に・・・いらないわ。あたし達、エリートコースの人生歩んでるの」
ブサイク「ああ、そうかい」

ブサイクは変なスマイルを女性達に向けた。
女性達「な・・・何よ?」
それはサインだった。今から俺の強さを見せてやるという・・・。
視線を男達にめぐらせた。
ブサイク「弱い男ども、モテねえなんてかわいそうだな!!」
誰でもいいから、とにかく男達を殴り倒し、自分が強い事を
女性達に証明する。それがブサイクの狙いだった。

男達「この野郎!ブサイクのくせにムカツクんだよ!!」
男達はやはり単純だ。
小学生の算数のように、ブサイクの自分のための挑発に乗るからだ。
4人ぐらいブサイクに襲い掛かってきた。
女性達は呆然としたまま、その場を動かない。

ブサイクは片手だけで、4人の男を殴り倒す。
しかし、手ごたえがなかったので、今度は通りすがりの男を殴った。
ブサイク「くたばれ!!」
男「ひい!!」
気がつくと、繁華街で人々に溢れている街は、誰も寄せ付けずに、
ただ、倒れている人が多い街と化した。
女性達「・・・わ、分かったわ。あなたの彼女になるわ」
ブサイクはエリートコースの女性をもナンパに成功した。
ブサイク目標達成まであと39人。

ブサイク「お前らついてこい!!」
61人の女性を連れ、デパートに場所を移した。
かわいい店員が笑顔であいさつをする。
かわいい店員「いらっしやいませ」
ブサイクはそのかわいい店員にブサイクスマイルをした。
かわいい店員「・・・?」

ブサイク「笑顔には笑顔を返すって奴さ」
ブサイクはそう言って、札束を床に置いた。
かわいい店員の店員はどうしても目がそっちに行く。
ブサイク「やるよ。ナンパしてんだよ」
かわいい店員「喜んで!」
即答だった。
続いて、ブサイクは同じ方法で、店案内風の店員をことごとく
ナンパしていった。・・・ブサイク目標達成まであと10人。

 

制限時間まで残り15分しかない。
さすがの天朗も焦ってきた。ハンサムスマイルの事を忘れている。
ナンパテクニックを駆使するしかなさそうだ。
もちろんブスはナンパできない。例の争いで負けるからだ。
天朗「そこのかわい子ちゃん」

女性「何?あたしのことかしら?」
女性は嬉しそうに振り向いた。
天朗の頭の中でナンパ知識が駆け巡る。
天朗の目は真面目だった。ここでニヤニヤすると勘違いされやすい。
こんなかっこいい人がナンパするなんて、本当なのかと。
また、何かのゲームなのではと。だからニヤニヤするわけにはいかない。

天朗「キミのことだよ。キミ以外誰がいるんだよ?」
手のひらを上にして、全ての指先を相手に向けながら言った。
女性「やっぱり私の事だ。何?何?」
天朗「彼女がいなくて困ってるんだ。なんか女性が喜びそうな
プレゼントとかないかな?」
天朗が得意の遠まわしナンパだ。

女性「そうね、あたしだったら、くまのぬいぐるみがいいかな?」
女性は少し残念そうに答えたが、まだ何か言いたさそうだ。
天朗「あーお金ないよ僕。困った困った・・・」
少し間が開いた。天朗の頭の中ではすでにシナリオが出来上がっていた。
相手の心理をうまくるかったナンパテクニックだ。
女性「あたしが、もし彼女になるんだったら。いらないけどな・・・」

ビンゴ。天朗のシナリオどうりになった。
天朗「え?キミがもし彼女になってくれるんだったら僕すごく嬉しいな」
少しおおげさに喜びながら言った。
女性「じゃああたしが彼女になってあげる!」
ナンパ成功。この調子でこの後も8人にナンパしてすべて成功する。
天朗目標達成まであと一人。

 

店員達が次々にブサイクについていってるデパート内は混乱していた。
ブサイクは、カウンターを見つけては、
そこにいる全ての店員にナンパしていた。
店員「いらっしやいませ。何をお求めですか?」
ブサイク「お前だよ」
店員の身体が硬くなった。ブサイクに真面目な顔でお前だよと言われると
どんな対応をしていいのか分からないのだ。

しかし、その思考もすぐに終わった。
ブサイク「500万で買うぞほーれほれ」
カウンターの上に札束を置いた。店員の反応は早かった。
店員「はい分かりました!」
ブサイク100人ナンパ達成。手が反応するかのように携帯に伸びた。
ブサイク「俺の勝ちだぜ、げははははは!!」
ケータイを持ちながら、吐き気がするような笑みを浮かべた。
ブサイクの笑顔

 

この時、天朗99人目で、てこずっていた。
天朗「だ・・・だから俺と付き合ってくれよ」
女性「無理よ。だって、あたしアニメキャラの男しか愛せないから」
強敵だった。相手はアニメのキャラにしか恋ができない女性。
天朗にとって初めての屈辱的な失敗だった。
この女性にはハンサムスマイルや、どんなナンパテクニックも通用しない。

女性「じゃああたし、これからドラえもん見るからさよなら」
天朗「ちょっと・・・」
言葉をさえぎるように携帯がなった。天朗の表情が変わる。
あんなブサイクにまさか自分が負けるのか。
あんなブサイクよりナンパ力が劣っているのか。ハンサムなのに。
天朗の頭の中で不安な考えがいくつも交錯する。黒い渦ができるように。

携帯をとった。
天朗「もしもし」
ブサイク「げははははは!!俺の勝ちだな!例の場所で待ってるぞ!!」
聞きたくない声だった。
天朗は舌打ちをして電話をきって、女性達に言った。
天朗「よし、ついてきてくれ」

 

例の店の前で、ふたたび二人は顔を合わせた。
勝利に誇った顔をしているブサイクを前に、天朗はやや気圧されている感じだ。
ブサイク「一人足りねえじゃねえか」
トゲをさすような一言。ブサイクは数えるのが早かった。

ブサイクには100人の彼女ができていた。
これが勝負だと分かっていても、金の力なのか、一人も離れる女性がいない。
一方、天朗の方は10人ほどの女性が離脱していった。
ブサイクは叫んだ。

ブサイク「この世で何が一番大切かー?」
女性達「お金!!!」
ブサイク「ゲハハハハ!!」
しかし、天朗は今の女性達の返事をしっかりと聞いていた。
ややうつむいていた天朗の顔が今ので何か分かったのか、
正面向きになった。明かに表情が違う。

天朗「随分、低い声もあるんだな?」
一瞬、沈黙が走った。ブサイクには何のことだかさっぱりだ。
天朗は、ブサイクが集めた女性達を一人づつチェックした。
ニューハーフが25人。
一方、天朗が集めた女性にはニューハーフはいない。

天朗「こいつらを見ろ」
天朗はそのオカマ達をブサイクの前に立たせた。
ブサイク「・・・あれれ?」
そのまま、天朗は誇らしげに笑いながらブサイクの目を見た。
天朗「どっちが勝ちだろう?」
ブサイクは何も言えなかった。

天朗「俺の勝ちだ!!」
天朗は大きな声でそう言った。
ブサイク「ちくしょう・・・・」
ブサイクはさっきまでの勢いがまるで嘘かのような足取りで
その場をあとにした。

 

ナンパ勝負は天朗の勝利に終わった。

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