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炊きたてご飯みたいな教師

新学期早々、山田高校に新任の教師が来ることになった。
在任教師達は、不安と期待感を胸に、
その教師を温かく迎える心の準備をしている。

新任教師が校舎にやってきた瞬間には、
無数のうじむしが、何かやばい出来事を予測するかのように、
炊き立てご飯のような光沢を放ちながら厨房で必要以上に動いていた。

職員室ではそのうじ達のテレパシーを受け取ったかのように、
蝿が急増し始め、教師達の周りをブンブン飛び回る。
校長先生が、蝿を手で振り払いながら口を動かした。

校長「おいおい、誰だ!こんなに蝿をもってきたのは!」

校長の隣で、教頭が顔をしかめている。

教頭「まったくだ!誰か腐った弁当をもっているんだな!
金が乏しいからといって、ゴミ箱から見つけてきた弁当を
学校に持ち込むのは許せる行為ではないな!名乗れ!!」

教頭の渇が室内に響いたが、誰も反応はしなかった。

教頭「今日やってくる新しい教師に失礼だよ。この蝿の数は」

窓の外から、異臭が漂ってきた。
生ゴミ置き場に砂糖をまぜたような匂いが教師達の鼻をついた。

教頭「ぐああ!なんだよこの匂いは!」

校長「うええ!」

校長が窓を閉めると、窓の外に人影が見えた。
こちらに向かって妙な変わった進み方をしている。
白髪に、白い服。まだ20代ぐらいの男性だった。
背中しょってるに白いリュックサックには、ぎっしりと
荷物を詰め込んである。

その男が新しい教師だと職員達が分かった瞬間には、
全員がっくりとし、ため息をついた。
どう見てもあの格好と歩きかたと異臭に、普通という文字は似合わない。

 

 

「ブーーン!」
蝿の群れが職員室を飛び出し、学校の入り口へ向かう。
新しい教師を歓迎しているようで、嬉しそうに羽を動かしていた。

新しい教師が学校に入ると、
蝿に全身を覆われ、目の前が見えなくなった。

新しい教師「お前達、歓迎してくれるのは嬉しいけど、
これじゃ進めないよ。ちょっとの辛抱だよ。どいてくれよ」

新しい教師に促され、蝿は横にどいた。
嬉しそうに触覚を動かし、時折、手で”お前大好きだ”という
ジェスチャーをしている。

新しい教師は普通に歩けない。
前世がウジだったので、その時の記憶の断片が残っている。
その断片は、本来の人間の脳の一部にうじの信号を送り、うし脳を作っていた。
歩き方がおかしいのは生まれつきだった。

 

その教師が受け持つことになるクラスの3年A組では、
授業放棄常習の生徒たちが興味津々で席についていた。
新しい教師がやってくるのが楽しみでたまらなく、
前の担任だった教師はこの生徒達にいじめられ、
心に大きな傷を負いながら教師をやめていった。

生徒達は新しい教師をいじめたくてたまらない。
ただ、”炊き立てご飯のようなウジ教師”がやってくることは、
全く予想していなかった

 

職員室の扉が開くと、ウジを象徴とした四つ倍の体勢のままの
新しい教師の姿があった。
異臭が他の教師達の鼻をつき、手で鼻をつまむ。

新しい教師「今日からここで働かせていただく蛆田です。
こんな体勢で、こんな体臭で、こんな口臭でご迷惑をおかけしますが、
その欠点を、一生懸命生徒達に学校のすばらしさを教えたいと願う
教師の誇りで、埋めていきたいと思います!」

新しい教師の口から発するその口臭は、
廃棄物処理施設にレモンジュースとドブ川の泥をかけたような匂いで、
いくら鼻をつまもうとも、あまりにも強烈なため、
受けとらざるを得なかった。

教員達「ぐああ!」

校長が苦しそうな顔をしながら、早々に蛆田に一通り説明を始めた。
長居させてしまっては、匂いが職員室に染み込んでしまうので、
さっさと追い払いたいという考えがあった。

校長「と・・・とりあえず・・・3年A組に行ってくれ・・・
・・・そこで、軽く自己紹介と・・・授業は・・・まあ、まかせるよ?」

蛆田「はい!頑張ります!」

蛆田が職員室をあとにすると、教員達は一斉に鼻から手を放し、
窓から外の空気を吸った。
教頭が、心配そうに校長に問いかける。

教頭「校長先生・・・あの問題クラスでいいんですか?」

校長「・・・まあ、あそこは教師が何度も入れ替わるから
数あれば変な教師もでてくるだろう・・・」

教頭「いや、そういう意味じゃなくて・・・」

教頭には、まだ何も知らない教師が、心に傷を追って、、
二度と教師をやらなくなるのではないかという心配をしていた。

 

3年A組では、生徒達が薄ら笑いを浮かべていた。
まだ見た事もない新しい教師が精神的なダメージを負う姿を想像している。
この生徒達には、校長もお手上げで、
まともな授業を教える環境を与えるという気にもなれなかった。

ただ、生徒たちの薄ら笑いが消えたのは、
異臭が漂い始めてきたときだった。

生徒達「うぐ・・・」

蛆田が教室のドアを開け、中に入っていくと、
生徒達の余裕が消えた。
蛆田がにっこり微笑み、生徒達の不安を必死に消そうとするが、
約2割の数の生徒が教室をでていこうとした。
これほどまでに激しい匂いを我慢することができなかった。

逃げる生徒達の足が急に止まった。
ドアの向こうで、蝿の大群が見張るかのようにブンブン飛び回っている。
逃げ道がなくなった事が分かると、鼻をつまみながら嫌々席に座った。

少し間を開いて、蛆田が自己紹介を始めた。

蛆田「ようお前ら。俺の名前は蛆田 虫男だ。よろしくな。
匂いなんて気にすんな。人はそういうのを乗り越えて強くなれるんだぞ」

 

皮肉っぽい声に、金髪の生徒がとうとう感情を剥き出しにする。
異臭を我慢しながら、蛆田に向かった。

金髪の生徒「このやろう!」

すると、蛆田は”かかっこい”と言わんばかり、
四つ倍の体勢から仁王立ちになった。
白い服に包まれた身体を左右に揺らすのは、歓迎感のある仕草。
その仕草は、まるで巨大ウジが踊っているようだったので、
金髪の生徒は気分を悪くしてしまい、向かってくるのをやめた。

金髪の生徒「うぇ・・・」

その様子を伺いながら、蛆田は優しそうに言葉をかける。

蛆田「照れなくていいぞー。自分を素直に表現していいのだよ」

金髪の生徒「おぇ・・・来るな!」

話を断ち切るかのように、金髪の生徒はおとなしく席に座った。

 

蛆田がリュックサックを下ろすと、
生徒達に授業を始める合図として、手を上げた。
気味の悪い笑顔を生徒たちに向けると、口を開いた。

蛆田「基本的に、給食は腐っている方がいいんだぞ」

生徒達は、必死に鼻を押さえている。
話を聞く余裕がなかった。
蛆田の視線が鋭く光る。生徒達に渇を入れた。

蛆田「ウジウジーーーー!!!!」

生徒たち全員に鳥肌が立った。
白髪で白い服を着ている蛆田から大声を発せられると、
本物のウジが叫んでいるかのようで、気がおかしくなる。

蛆田「お前ら俺の話をちゃんと聞こうよ」

またあんな声を出されるとたまったもんじゃないので、
生徒達は蛆田の話に耳を傾けるようになった。
ふたたび、蛆田の口が開く。

蛆田「ゴミ捨て場の生ゴミをさらに腐らせたときの達成感は最高だ。
それを給食の時間に、他のクラスの生徒達に見せつけながら
食う時の優越感は、一度味わうと麻薬的にやめられないぞ~」

せっかく話を聞いていた生徒の一部が、
ふたたび苦しそうな顔で、匂いを嫌うことに神経を集中させた。
蛆田の話は生徒達に通じない。

蛆田「お前ら、炊きたてご飯はなるべく食うなよ。
そりゃ食えるけどさ、なんか仲間を食っているみたいで
ちょっと罪悪感が出てくるんだよね~~」

目をキラキラさせ、話を続けた。

蛆田「そりゃ炊き立てご飯は動いていないけどさ・・・。
人っていうのはさ、楽しく生きていこうという課せられた運命があると、
僕は思うんだよね。だから罪悪感なんて必要ないんだよ。
心はいつも楽しいままで生きていきたい。これ大事だよね」

その話が止まることはなかった。
時計の針が12時を指した頃になると、一人の生徒が
初めて蛆田に質問をした。

普通の生徒「あの・・・給食はまだですか?」

鼻を押さえながら必死に出た声は、ちょっとぎこちなかった。
蛆田は答えた。

蛆田「たくさんあるから、校庭に行こうか」

不安が生徒たちを襲う。
いつもは、給食当番が厨房まで取りに行って生徒達に配るはずの給食が、
なぜ校庭にあるのかという疑問が浮かぶ。
そして、蛆田のこの一言が、生徒達の変な予感を確証へと変えた。

蛆田「ゴミ屋さんが、一週間前のを校庭にばらまいてくれるように
手配してやったから、たくさんを栄養を蓄えておけよ」

生徒達「なんでそんな・・・」

蛆田がリュックサックをチャックを開き始めた。
元気のよさそうなうじがそこからででくる。

蛆田「投げるよ」

生徒達「わ・・・分かったから閉めてくれ」

 

蛆田達が校庭に行くと、予定通りゴミ屋さんがやってきて、
生ゴミをばらまいた後、帰っていった。
職員室から慌てて校長がやってきた。蛆田と生徒達に問う。

校長「何の真似を・・・」

蛆田「お食事の時間だからです」

校長「へ?」

蛆田「全部食べますので、綺麗になると思います」

校長の表情が青ざめた。
ただ、あの教師いじめの生徒たちが蛆田のペースに巻き込まれている
状態に少し期待感をもってのことか、蛆田をこれ以上責めなかった。

校長「・・・そうか・・・分かった」

校長はそう言い放ち、職員室へ戻っていった。

 

地獄が始まった。
嫌がる生徒には、無理やり蛆田はゴミを口に詰め込んだ。
逃げようとする生徒もいたが、蛆田による”家族へウジをプレゼント”
という脅しがかかったため、無駄だった。

殴りかかってくる生徒もいたが、蛆田に近づきすぎると、
異臭がよりきつくなってくるので、手が止まった。
生徒達は、教師いじめどころか、蛆田一人の手によって
徹底的にいじめられた。

毎日続く生ゴミ給食と強制的に聞かされるウジ関係の授業は、
半年後、生徒達を変えてしまうことになった。

 

生徒達「うじうじ~~」

蛆田「今日の給食は?」

生徒達「大好きな一週間前の生ゴミです」

蛆田「うじうじ~~!俺も大好きだー!」

教室に机はなかった。
四つ倍で白い服を着ている生徒達に、机は高すぎる。
そして蝿が、天井を見えなくするぐらいまで大量に飛んでいた。

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