昔、昔あるところにおじいさんとおばあさんが仲良く暮らしていた。
おじいさんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行った。
お婆さんが川で洗濯をしていると、川上から大きな桃が流れてきました。
「おお、こりゃでけえ桃だ」
おばあさんは、腕で桃をがっしり抱き上げると、それを家まで持ち帰った。
その途中で、桃は1秒ごとに秒針の音をカチカチと立てていたが、特に気にしなかった。
家に戻ると、おじいさんが疲れ果てた様子で壁際に横たわっていた。
「爺さん、これ見て。桃、でかいよ」
「なんじゃそりゃ」
「だから桃だって」
おじんさんは桃に目をやると、驚いた様子でその場で固まってしまった。お婆さんが訊く。
「どうしたの?」
「・・・それ、爆弾じゃないのか!?カチカチ音がするよ」
「そりゃするけど・・・」
婆さんは、ややボケていた。秒針の音がするならば、本来すぐに爆弾だと想像できる筈だった。
しばらく考え込んだ末、ようやく爆弾である事に気がつくと、顔面蒼白になった。
「ひぃいいいいい!!」
瞬く間もなくパニック状態に陥った。逃げる行動まで思考が働かない。
一方、爺さんは死を覚悟したのだろうか、両手で自分の頭を押さえている。
秒針がカチカチカチ・・・・と、次に一瞬止まる。
短い間をおいて、
それは起こった。
『パカッ』、
と音を立てながら桃が半分に割れ、中には大きなバースデーケーキが見えた。
爺さんがタイミングを見計らったかのように大きく飛び上がり、歓声を上げる。
「ばあちゃん、120歳の誕生日おめでとう!!!」
「ひいぃ、来ないで!」
婆さんのパニック状態は治まるどころか、一向に悪くなっていくばかりで、
とうとう家を飛び出していった。
こんな筈ではなかった。愛する妻のためにわざわざ用意した時限爆弾を装った桃。大きなバースデーケーキ。人は窮地に立たされるほど、愛する人を頼りにするとどこかで聞いたことがある。
そして、その窮地を乗り越えた時に、夫婦の絆はさらに強くなるのだ。
だからこそ、このバースデーケーキの演出はそれと似たような効果があって、より一層喜んでくれると思っていた。しかし、現実は違っていたのだ。
「待ってくれ、婆さん!これはお祝いなんだ!」
あとを追いかけた。しかし、婆さんの姿は既にどこにも見当たらない。
「こんな・・・こんな筈では・・・」
それから3日後。
パニック状態のまま、とうとう体力が尽きて道に倒れた婆さんを助けたのは、桃太郎と名乗る巨漢の男だった。身長233cm。
「婆さん、俺は老人フェチなんだ。結婚しよう」
「あんた、名前は?」
「おれは桃から生まれた桃太郎」
桃太郎の話によると、その桃は川ではなく空から隕石のように降ってきたらしい。
すでに鬼を退治してある事がわかった。
「毎日、俺のために愛のきびだんごを作ってくれ」
「いいわよ」
婆さんの短い第二の人生が始まった。